『ありがとう、トニ・エルドマン』

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 皆さん、こんにちは、女住人Mです。今週末からいよいよ夏興行の始まりです。夏休みに向け大作やファミリー映画が続々公開されるこの時期。っと、その前にどうしてもご紹介しておきたい作品が・・・6/24(土)公開『ありがとう、トニ・エルドマン』です。
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 親元を離れ生活しコンサル会社に勤める独身女性イネス(ザンドラ・ヒューラー)。仕事人間の彼女には悪ふざけとジョークが大好きな父・ヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)がいます。父は愛犬の死をきっかけに娘が働くブカレストにやってくるも、そんな彼が鬱陶しいイネスはぞんざいに扱ってさっさと追い返してしまう。が、ホッとしたのも束の間、モサモサのカツラ、出っ歯の入れ歯をした父が"トニ・エルドマン"と名乗って再びイネスの前に登場します。本作は世界各国の映画賞に輝き、有力誌で2016年ベスト1を総ナメにした父と娘の物語です。
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(「こんにちは、私がトニ・エルドマンです。」)

 さて突然ですが皆さん、お父さんとの関係性ってどうですか?小さい頃は「パパ、パパ」と言っていた娘もいつの間にか「お父さんキモイ!下着一緒に洗うとかキモイ!」と言い出し、おうちで肩身の狭い存在になっている・・・というのはよく聞くお話。私の周りも7割ぐらいは父と疎遠、もしくはあまり接点なしと言っている友が多いのですが、私の場合は小さい頃からお父さん子で、すこぶる良好な関係を保っていました。とは言え、一緒に生活した時間より離れて暮らす時間が遥かに長くなってしまうと、たまに会って話しかけられるだけで何だか不機嫌になってしまう。嫌いじゃない、嫌いじゃないけどほっといて~、となる。
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でもってこの映画です。私はイネスが自分に見えてしょうがない。ちょっと陽気にジョークを言う父、これが友達のお父さんだったりすると「楽しくていいじゃん、可愛いじゃん」となるけれど、自分の親だとイライラ。ちょっと心配されようものなら「ちゃんとやっているから」とイライラ。いやわかってるんです、お父さんは無条件に心から心配してくれていることも。それが充分わかっていても、甘えからの八つ当たり。それも娘の自分なら許されると思っているおごり。映画の中でも冷たい行動を取ったあげく、父をベランダから見送り、トボトボ帰る後ろ姿を見て、涙ぐむイネスに「どっちやねん」となりますが帰省の度にこれと全く同じ行動をしている自分がいる。悪い、悪いと思っていても心は裏腹、一人になってやっと素直になっても遅いのに・・・
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 と、父娘の微妙な距離を描く物語、ここまでだったら、よくある話ですがこの映画の本領発揮はここから。「もうお父さんが急に来てね、いい迷惑よ」なんて友達と話していたら後ろに立っている、で「私はトニ・エルドマンです。」と名乗って友達と談笑し、和気あいあい。「何やってんのよ!」とお父さんを責めるも、娘が心配でならないお父さんも引かない。お得意の悪ふざけを交えて、イネスの気持ちをほぐそうと、どんどん日常に浸食し、却って彼女のイライラは積み重なっていくのです。
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でもイネスも気付き始めるのです。自分の存在や居場所に執着し過ぎて周りが全く見えなくなっていることも。そんな執着を守りたいがために大切なことを見失っていることも。そして大切なことが一体何なのかすら、わからなくなっていることも。だからこそ自由に生きている(と見える)父を見て、余計に腹立たしくなっていることも・・・・
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(一人暮らしの女の悲哀溢れる、このシーン!)

 そんなどん詰まりのイネスだったのですが、ついに感情のビッグバンを迎えることになります。あんなに自分の気持ちを殺して本当のことから目を背けていた彼女がまさに"裸"の心をむき出しにする展開が!唖然!愕然!?爆笑!なのに泣ける、泣けてしょうがない・・。ちょっと奇想天外な父娘の物語ではあるのですが、映画を観終わった後は何とも言えない温かい余韻がイネスと共にむき出しになった皆さんの心も包み込んでくれると思います。
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 本作はドイツ=オーストリア映画。馴染みの薄い遠い国のお話に思えますが、父娘の関係はこんなにも世界共通なのか、ということに驚愕しつつ、自分に似た仲間が見付けられた気がしてちょっと嬉しくもなったり・・・いや、そんなことより、今後はちゃんと素直にならなきゃですね。気付かせてくれて、本当に「ありがとう、トニ・エルドマン」!

By.M
© Komplizen Film

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