2015年11月アーカイブ

『黄金のアデーレ 名画の帰還』

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 皆さんこんにちは。奇しくも今回ご紹介する映画に登場する画家グスタフ・クリムトの絵画がとっても大好きな女住人Mです。戦時中、芸術愛好家であったヒトラーはヨーロッパ中の美術品を略奪し、自身の美術館を設立しようとしていました。当時、ナチスが没収したことで未だ正当な持ち主の元に戻っていない美術品は10万点以上あると言われています。今回ご紹介するのはまさにその奪われた美術品をめぐる物語、11/27(金)公開の『黄金のアデーレ 名画の帰還』です。
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 主人公のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)はナチス占領下のウィーンからアメリカに亡命した過去を持つ老女。ナチスに奪われた叔母・アデーレの肖像画の返却を求め、オーストリア政府相手に裁判を起こします。その絵画は"オーストリアのモナリザ"と称えられ、オーストリア国立美術館が所有していたグスタフ・クリムトの名画<黄金のアデーレ>(正式名称:アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ)。マリアは駆け出しの弁護士ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)に裁判の協力を依頼します。物語は<黄金のアデーレ>が辿った数奇な運命とナチスに人生を翻弄されたマリアの過去と現在を交錯させながら描かれていきます。
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オーストリアを代表する画家クリムトの名画の1つ<黄金のアデーレ>。モデルとなったのはマリアの叔母。芸術家のパトロンもしていたぐらい裕福な暮らしをしていたもの若くして死去。その絵は生活を共にしていたマリアとその両親の住む家に飾られていました。が、ナチスがオーストリアを占領したことを機に生活は一変、絵画や美術品はすべて没収されてしまうのです。彼女たちはユダヤ一家だったから・・。

マリアは生きるために全てを捨てて、夫と共にアメリカへ亡命します。生まれ育った家を捨て、これまでの生活を捨て、両親すら捨てて・・・・。全てを捨てて命からがらアメリカへ渡った彼女は年月を経て、再びその想いとプライドと正義をかけて、叔母の肖像画<黄金のアデーレ>を取り戻すべく、絵画を所有するオーストリアを相手に裁判を起こすのです。それは本来ならマリアが相続すべきものでした。
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 この絵は世界で最も高額な絵画の1つと言われる名画で時価1億ドル以上とも言われていますがもちろん、その金銭的な価値のためでマリアは行動を起こしたのではありません。そこだけ切り取るとセンセーショナルな事件にみえますが、マリアにとってこの絵画がただの芸術品でなく、本当は何を意味していたのかは、この映画を観ると痛いほどに伝わってきます。
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(マリアとランディを助けるジャーナリストを演じるのはダニエル・ブリュール。
彼の存在が描かれるところも胸打たれるポイントです。)

 ユダヤ人だっただけで狂わされた人生、亡くした家族、友、捨てるしかなかった故郷。辛く悲しい思い出しかない故郷ウィーンに戻ることを頑なに拒否していたマリアが絵画を取り戻すためにランディと再びこの地を訪れるのですが、彼女は決してドイツ語を話そうとはしない。そんなところにも彼女が抱えていた喪失感がどれだけ大きいものか感じとれます。そして訴訟に関わる過程で彼女は否が応でも過去と対面しなければならないのです。その度に湧き上がってくる怒り、悲しみ、やるせなさ。戦後から随分時間が経った今も決してマリアの中では終わらない、忘れられない記憶があるのです。そんな想いを抱えながらも、時にシニカルな笑いやユーモアでもって、政府に立ち向かう女性マリアを演じたアカデミー賞女優ヘレン・ミレンの演技はさすがとしか言いようがありません。
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(本作のプロモーションで来日したヘレン・ミレンさん。
共演したライアン・レイノルズについては「ハンサムなんだけど脱ぐともっと凄いのよ」と。お茶目なコメント。)

 一方、駆け出しながら弁護を引き受けることになったランディ。最初は勝訴したら手に入るであろう莫大な報酬といった邪な思いで始めたマリアとの二人三脚だったのですがオーストリアのユダヤ人というルーツを持つ彼にとってもこの裁判を通し、自分が何者なのか、どうして自分が今ここにいられるのかを知るきっかけを得ることになります。直接は戦争を体験していなかったランディでさえも、祖先の無念の思いを経てここにいる。マリアの涙の記憶が描かれるだけでなく、ランディという若者が自身のアイデンティティーを知りそれにより成長していく物語も描かれるところが本作の魅力でもあります。

 ~人は同じことを繰り返す。だから忘れてはいけないことがある~
そんなことを改めて考えさせられながらも、信念と誇りをかけて戦ったマリアの姿にパワーが貰える1本です。
スクリーンで是非、ご堪能ください♪

By.M
©THE WEINSTEIN COMPANY / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ORIGIN PICTURES (WOMAN IN GOLD) LIMITED 2015

『コードネームU.N.C.L.E』

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 こんにちは、スパイ映画が大好きな女住人Mです。2015年はスパイ映画の大豊作YEAR!その流れにもう1本加わります。今回ご紹介する映画は11/14(土)公開の『コードネームU.N.C.L.E』です。
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 舞台は東西冷戦下の60年代。CIAエージェントのナポレオン・ソロ(ヘンリー・カヴィル)とKGBエージェントのイリヤ・クリヤキン(アーミー・ハマー)は謎の組織の核開発を阻止するべく、敵対する者同士でありながら手を組むことに。組織への潜入の鍵を握るドイツ人科学者の娘ギャビー(アリシア・ヴィキャンデル)を守りながら、敵を追うことになります。
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 当初はソロ役にトム・クルーズを置いてスタートしたこの企画。トムさまのライフワーク「ミッション:インポッシブル~」の撮影時期との被りがあったりで「スーパーマン」でもお馴染のヘンリー・カヴィルがソロに抜擢されたのですが、いや~もうそれで大正解。トムさまは本作を降りたことで「ミッション~」という素晴らしい1本を完成させてくれましたし、本作にとってもヘンリー・カヴィルとアーミー・ハマー(以下、アミハマさん)の並びの方がバランスは絶対良かったですね。米ソ関係が緊迫している時代背景があるので、トムさまとアミハマさんだと、どう見てもトムさま扮するCIAのアメリカが有利じゃない?って見えちゃいますからね。敵対する二人はたまたま利害関係が一致したので協力し合うのですが、何かあれば出し抜いてやろう、という気満々なので、二人がレベルの拮抗した優秀なスパイに見えるからこそ物語も栄えるってものです。
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 監督のガイ・リッチーは「シャーロック・ホームズ」もそうですが、タイプが違うコンビ同士のバディものは得意なので、このキャスティングでなかったら魅力半減だったかもしれません。いつもはスーツでキッチリしているヘンリーさんの御髪が激しいアクションになると「キングスマン」のコリン・ファースよろしく、前髪がハラリと乱れる感じや対するアミハマさんの約195㎝の長身とその甘いマスクという高スペックを備えながらも生真面目というギャップキャラで観客を魅了しちゃいますYO!とにかくスタイリッシュ、エレガンスなシャレオツSPYアクションなので普段スパイ映画など観ないわ~、という方にも是非観て頂きたい!実際問題、二人が追っているのは核開発を企む組織なんですが、全力で戦いつつも、基本エレガンス~なのでイリヤが敵にやられそうになっている時にソロは余裕ぶって素知らぬふりをしたりするシーンなんかあって、エレガンスを越えて余裕かまし過ぎです。でもやっぱり大人の男はいかなる時にも余裕をかますぐらいの方が色気があって良いですね。
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 そして、イケメンスパイの2人の間に現れるヒロイン、ギャビーがまた可愛い!潜入捜査のため素敵ワンピの数々を身にまとうのですが、ギャビー演じるアリシアちゃんが華奢でバンビみたいなので、どれもお似合いでうっとり。ちょっとハスキーヴォイスっていうのも良いですね。そんなアリシアちゃんは今年ハリウッドで大ブレイクし、マット・デイモン主演の「ジェイソン・ボーン」シリーズほか話題作に続々出演が決まっているので今後もご贔屓に!(そう言えば「ミッション~」で一躍注目されたエルサ役のレベッカ・ファーガソンもアリシアちゃんもスウェーデン出身。今、北欧女子が熱い!)
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スパイものと言えばイギリスが出てこない訳にはいきませんが、そのあたりはヒュー・グラントが登場し、きっちり押えるのでその展開は本編でお楽しみ下さい♪
『コードネームU.N.C.L.E』は11/14(土)からシネマイクスピアリにて公開です。

By.M
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『サヨナラの代わりに』

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 皆さんこんにちは、女住人Mです。今回は先日の東京国際映画祭で10年ぶりに来日、アカデミー賞に2度輝いているオスカー女優ヒラリー・スワンク主演の『サヨナラの代わりに』をご紹介します。
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 主人公は弁護士の夫エヴァン(ジョシュ・デュアメル)と順風満帆な生活をしていた35歳のケイト(ヒラリー・スワンク)。しかし、難病のALS(筋委縮症側索硬化症)と診断され、1年半後には車椅子生活を余儀なくされてしまいます。ある日彼女は夫の反対を押し切って、大学生のベック(エイミー・ロッサム)を介助人として採用します。ベックはガサツで家事も苦手だったのですが、ケイトを過度に病人扱いすることなく、対等に向き合ってくれた唯一の存在だったのです。
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ALSは原因不明の難病。症状に個人差はあるそうですが、診断された後の平均余命は2~5年と言われています。それ故、ケイトを演じ、プロデューサーとして最初から本作に関わってきたヒラリー・スワンクの並々ならぬ想いもとてもストレートに伝わる1本です。これまで「ボーイズ・ドント・クライ」では性同一性障害の主人公を、「ミリオンダラー・ベイビー」では過酷な運命を辿る女性ボクサーといった役で、圧巻の演技力をみせてきた彼女だけあって、本作の演技も"オスカー女優"にふさわしいことは言うまでもありません。でもそういった面がことさらに強調される映画ではなく、人が人と関わっていくことの大切さについて考えさせられ、かつ最後には心にぽっと温かい明かりが灯るような作品になっているのが本作の魅力。
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冒頭、ケイトは誰の目から見ても不自由のない、恵まれた生活を送る一人の女性として登場しますが、病で一変、メイクや着替えも誰かの手を借りなければならない、車椅子での生活となってしまいます。夫は変わらず優しく接してくれ、友達も気にかけてくれるものどこか腫れものに触れられるような距離感や自分自身、周りの目を感じて気丈に振る舞ってしまうことに心が疲れてくるのです。そんな時に出会ったのが、介助人としてやってきた大学生のベック。ミュージシャンという夢がありながらもなかなか前に踏み出せず、半ば自暴自棄になっているベックは洗練されたケイトとは全く異なるタイプでしたがそれ故、いつしか気兼ねなくなんでも話せる存在に。ベックを演じるのは「オペラ座の怪人」でヒロイン・クリスティーヌを演じたエミー・ロッサム。海外ドラマ「シェイムレス」の中でもはちゃめちゃ家族の長女を演じ、その中でも飾らない明け透けな演技がとても魅力的!彼女はこういう役が本当にハマります。
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 あまりにもタイプが違い過ぎる二人、出会った頃はすんなりとはいかないのですが、お互いが気持をさらけ出しているので二人の友情はどんどん深まっていきます。一方、夫のエヴァンは彼女とどう接して良いか迷いも生じ、ケイトにとってもベックといる時間の方が楽しみも多くなっていくのです。治療を兼ねたプールで知り合う老夫婦や自分の友達とは全くタイプも異なるベックの友達。体は不自由になったけれど、ベックとの出会いでこれまで知らなかった世界を知り、心は自由になっていきます。そしてベックがケイトに与えるだけでなく、ベックもケイトから、新しい世界を教わり、影響され、何よりも自分を初めて必要としてくれる存在であるケイトに出会ったことでどんどん変わっていくのです。そう、自分は自分でしか変われないけれどそのきっかけを与えてくるのは往々にして周りにいる誰かなんですよね。
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(本作を引き下げ10年ぶりに来日を果たしたヒラリー・スワンクさん。
数多くのオファーの中から本作を選んだのは友情と愛を描くパワフルな物語だったから、とヒラリーさん。スクリーンの中だけでなく、実際のヒラリーさんもパワフルかつエレガント!)

 ケイトとベックはこの出会いにより、自分を解放し、こうなりたかった自分を取り戻していきます。ケイトにとっては病の進行により、心の好転とは全く違う事実を受け入れる必要があるのですが、それでもベックと出会ったことで彼女が選ぶ生き方は、ベックなしでは得られなかったことに思えるのです。たった一人との出会いでも人生は一変するものですね・・・。
『サヨナラの代わりに』は11/7(土)からシネマイクスピアリにて公開です。

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『ミケランジェロ・プロジェクト』

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 皆さん、こんにちは女住人Mです。芸術の秋、ということで美術鑑賞を楽しんでいらっしゃる方も多いかと思います。長い月日を経た今も輝きが損なわれない美術品の数々を現代でも観られるというのは素晴らしいことですが、実はそういった作品の中には"モニュメンツ・メン"と呼ばれる人たちの偉業がなかったら失われていた可能性があった・・・というのはあまり知られていません。今回ご紹介する映画はそんな知られざるヒーローたちの活躍を描く、11/6(金)公開『ミケランジェロ・プロジェクト』です。
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 "モニュメンツ・メン"とは芸術の専門家で結成された特殊部隊。第二次世界大戦終戦間際、ドイツ軍はヒトラーの命により侵攻したヨーロッパ各国の美術品を次々と略奪していました。このナチスに奪われた美術品を奪還するミッションに動いたのが7人の"モニュメンツ・メン"!リーダーはジョージの兄貴ことジョージ・クルーニー扮するハーバード大学付属美術館館長ストークス。本作でジョージの兄貴は監督・共同脚本・製作・主演をつとめているという訳で、リーダーを慕ってモニュメンツ・メンに加入する専門家たちを演じる役者陣もマット・デイモン、ビル・マーレイ、ジョン・グッドマン、「ダウントン・アビー」の旦那様ことヒュー・ボネヴィルといった映画ファンには嬉しい顔ぶれで、紅一点でケイト・ブランシェットも参戦です。
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 ヒトラーはもともとアーティスト志望で美大に二度も受験していた美術愛好家。受験は失敗に終わり夢が絶たれたもの、その情熱はいつしか故郷のオーストリアにヒトラー総統美術館を建てることに向かっていきます。そこにダ・ヴィンチの「最後の晩餐」、「モナリザ」、ゴッホの「ひまわり」やレンブラント「自画像」といった誰もが知る美術品の数々を手に入れ、展示しようと考えていたのです。しかも敗戦が色濃くなってくると「略奪した美術品を敵国に渡すものか」と~ドイツが敗北した際には敵国に何一つ渡さず、全てを破壊する~"ネロ指令"を発令します。自分のものにならないのなら、人の手に渡るぐらいなら、全て壊せ、燃やせ、ってどんだけひねくれた愛憎・・・
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と、ヒトラーに奪われた歴史的財産の数々を奪還すべく立ちあがったモニュメンツ・メンなのですが、集まったのは芸術のエキスパートではあるもの、軍隊経験がほとんどないおじさま7人。美術品を救うために戦地の最前線に赴くも「人の命を救うことが最優先なのに、そんなのに構ってられない」と協力者が現れることもなく、悪戦苦闘が強いられ、やっとこさ手がかりを見付けても、既にナチスの手に渡り、破壊されたり、行方不明になっていたのです。美術品を守る者の代わりはいるけれど、それは一旦失われたら最後、二度と同じものは手に入らない・・・ストークスを始めモニュメンツ・メンたちは命を危険にさらしてもこれらを守ろうとするのです。でも、戦争ど素人で構成されたおじさまチーム、美術品を追っている途中に命を落とす者も出てきます。
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平和が訪れた時に永遠に残っていくであろう数々の美術品、次の世代にも受け継ぎたいと願う芸術品の数々、その存在を最優先してきたリーダー・ストークスでしたが、それを守っていくメンバーたちの代わりも決していないという当然の事実を目の当たりにしていき、自分のやっていることが本当に正しいことなのか、戸惑うこととなるのです。果たして自分が守ろうとしているものにどれだけの価値があるのかと。
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 本作は人間が生きる上で損なわれてはいけないものは何なのか、そんな普遍的なテーマが根底にありながらも、ハリウッド映画らしく明快でエンタメ感と正義感に溢れる1本となっています。最後の最後にジョージ・クルーニーにまつわるあの人が登場したりとリーダーの元、皆が結集する感じはとても清々しくもあります。この映画を観た後だと、美術鑑賞もまた違った心持ちでご覧になれると思いますよ。

By.M
(C)2014 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

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