2016年9月アーカイブ

『ハドソン川の奇跡』

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 陽が沈むのも早くなり、めっきり秋めいてきました。皆さんこんにちは女住人Mです。今回ご紹介する作品は86歳を迎えなお、意欲的に作品を作り続けているクリント・イーストウッド監督の最新作、9/24(土)公開『ハドソン川の奇跡』です。
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 2009年1月15日、ニューヨーク上空で155名を乗せた航空機を突如襲った全エンジン停止事故。近くの空港に着陸するよう管制官から指示がある中、機長のサリー(トム・ハンクス)はハドソン川への着水を決断。サリーと副操縦士のジェフ(アーロン・エッカート)は絶望的な状況から見事に不時着を成功させ、乗客・乗員"全員生存"の偉業を成し遂げ、サリーは英雄として称賛される・・・はずだった。サリーとジェフはその判断について国家運輸安全委員会から調査を受けることになります。
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 アメリカ人なら誰しも知っているこの事件をイーストウッド監督が描くことを決めたのは事件の後にこそ真のドラマがあって、それが多くの人には知られていなかったから。サリーは機長として長年の経験と知識を元に、ハドソン川への着水を決断し多くの命を助け一躍英雄になるのですが、その判断が本当に正しかったかを問われる容疑者へと立場を変えられてしまいます。
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その行動は余計に乗員・乗客を危険にさらす行為ではなかったか、管制官の指示に従った方が安全に人命を助けることが出来たのではないか?と。映画はサリーとジェフが調査委員による審問を受ける様子を主軸に、事故当時のサリーの記憶がフラッシュバックとなって描かれます。
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そう、こういった事件が起きると、一番問われるのは"責任の所在"。あんな状況で多くの命を救ったという結果はあれど、その判断が果たして本当に正しかったのか?二人のパイロットは徹底的に糾弾されることになるのです。でもサリーは42年間というパイロット人生において、いついかなる時も自身の仕事を純粋に全うしていたという自負があるため、決して屈しません。自分がこれまでコツコツと積み上げて来た経験、知識による決断を信じます。その一方で事故を経験したことで歪んだ記憶がPTSDの症状として襲いかかったり、急に世間から注目を浴びたことでサリーは居心地の悪さを感じ、バツが悪い表情を浮かべることも・・・。
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イーストウッド監督はこの作品をいわゆる英雄譚として描くことはせず、多くの命を救ったのは特別な誰かではなく、日々のことを当たり前のように、やるべきことを積み重ねていく人だった、といった語り口で描くので観ているこちらも背筋が伸びるような気持ちにもなります。サリーは一躍時の人となっても、プロとしての姿勢を貫き、むしろ「私は当たり前に自分の仕事をしたまでさ」と言っているかのようです。そして、飛行機が着水後、ハドソン川を行き来していた何艘ものフェリーのクルーたちが一目散に救助に向かうシーンも、プロ意識をもった人々の行動としてフォーカスされ、胸が熱くなるのでした。
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(意外にも初タッグとなるトム・ハンクスとイーストウッド監督。)

 言葉で表現するととても渋い映画のように思われるかもしれませんが、緊張感の糸は途切れることなく、でも最後は粋なセリフで締めくくられ、晴れやかにエンディングを迎える。まさにイーストウッド監督のプロフェッショナルな仕事ぶりまでも見せられたようです。映画自体はハラハラドキドキの連続ですが、イーストウッド作品のこの安定感、打率の良さ、本当に凄すぎる!!

By,M
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『怒り』

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 ひと雨ごとに秋の気配を感じますね、皆さんこんにちは、女住人Mです。今回は2010年日本映画賞を総ナメにした映画「悪人」の原作:吉田修一×監督:李相日のタッグが再び挑む9/17(土)公開『怒り』をご紹介します。
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 物語の発端は八王子で起きた夫婦殺人事件。現場には血で書かれた"怒"の文字。犯人は整形をし、逃亡を続け行方知れず・・・一年後、千葉、東京、沖縄で素性が知れない3人の男が現れる。一人は千葉の漁港で父・洋平(渡辺謙)と暮す愛子(宮﨑あおい)の前に現れた田代(松山ケンイチ)、一人は東京の大手企業に勤める優馬(妻夫木聡)が街で出会い、惹かれていく直人(綾野剛)、一人は沖縄に住む女子高生・泉(広瀬すず)が無人島で遭遇したバックパッカーの田中(森山未来)。3つの物語は決して混じり合うことなく進行するが、素性がわからない男と関わっていく人々はそれぞれにこう感じ始める。報道され続けているあの事件の犯人はこの謎の男ではないのか・・・と。
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あらすじを読むとこの作品、3人のうちの誰が一体冒頭の事件の犯人なの?といったミステリー展開を想起させると思うのですが、物語が進むにつれ観客の感情は別のことに囚われ、動き始めることとなります。それは"一体何をもって人は人を信じるのか?"ということ。
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 3人の謎の男と関わる愛子、優馬、泉は年齢も違えば境遇も異なるのですが、出会った目の前の男を心から信じようとしている人物として描かれます。ある者はその出会いで初めて人を愛し、また愛されている実感を得、生きる希望を見い出す。ある者は初めて他人に心を開き、素の自分をさらけ出し、人を信じてみようと思う。またある者は人を信じることで周りを惹きつけていた。目の前の人をただただ"信じる"、それだけのことが幸せだったり、日常を明るく照らすことさえあった。信じることで愛情が芽生え、愛されていると感じたり、心が落ち着いたり、軽くなったり、これまでに見えなかった何かが見えるようになったのです。
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 でも人の心はたった一つの疑念が頭を過るとそれにどんどん取り込まれていきます。一度心がざわめくとその不安は肥大する一方で、疑いがまた別の疑いを生み出していく。あんなに信じていたのに、何かが曇り出すとその確かだった感情は嘘のように壊れていきます。そして何をもって私はこの人を信じていたのか、ましてや、一旦疑いの念が心をむしばむと「なぜ自分はこの人を信じてしまったのか」と自分を責めることにもなり、またその疑いが晴れた時には「なぜ私は信じ続けることが出来なかったのか、あんなに信じていたはずなのに・・・」と。3人の男に関わる劇中全ての人々が"信じる"その気持ちの有り処の脆弱さに打ちのめされていくのです。

そして、その"信じる"という感情は誰の心にもあるが故にこの映画を観ていると、自分の感情そのものが不確かにさえ思えてくるのです。裏切られることがあるかもしれない、辛い思いをするかもしれない、それでも出来るだけ自分も他者も信じたい、そんな気持ちが揺らぎ心が闇に囚われ行き場を失くした時、その感情は"怒り"へと形を変えるのでしょうか。
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(こんなに色気があって危ういブッキー、見たことない!!)

 最後にこの映画を語る上でキャスト陣について触れない訳にはいきません。この映画でこれまで演じてきた役と同じような役回りをしている人が誰ひとりとしていません。この役者さんがこんな演技をするのか、という発見と共に皆がこの映画の人物、まさにその人になっている。人間の内面というとても繊細でヘビーなテーマを描く本作において、このキャスト陣の魂溢れる心むき出しの演技がなければ成立しなかっただろう、というのは誰の目にも明らかです。この秋、きっと観た人の心を掴む1本、必見です!

By,M
(C)2016映画「怒り」製作委員会

『スーサイド・スクワッド』

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 こんにちは、女住人Mです。昔では考えられなかったぐらい、ヒーロー映画がモリモリ公開されるようになりましたが今回は「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」からスタートしたDCフィルムズ・ユニバースの第二弾、9/10(土)公開の『スーサイド・スクワッド』をご紹介します。
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 間違って"シーサイド・スクワット"(それ、海辺でスクワットですから)と言われがちですが、『スーサイド・スクワッド』、直訳すると"自殺部隊"の意。スーパーマンがいなくなり世界崩壊の危機を迎えていた時、政府は減刑と引き換えに、獄中にいるスーパー・ヴィラン(悪党)たちを集めて特殊部隊"スーサイド・スクワッド"を結成します。彼らは体内に小型爆弾を埋め込まれ、逃げようもんなら即時処刑、ミッションに失敗しても処刑とまさに"自殺部隊"なのです。世界平和は正義感も団結力もない悪党たちの手に託されます。
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既に世界中で大ヒットしている本作、何と言ってもその要因は"スーサイド・スクワッド"のメンバーの1人ハーレイ・クインがギャン可愛過ぎる件!!元々は優秀な精神科医だったのにジョーカーに洗脳されてジョーカーLOVE×100になったサイコ美女。ハーレイ・クインを演じるのは最近では「ターザン:REBORN」でターザンの妻ジェーンを演じたマーゴット・ロビー。オーストラリア出身の26歳で女性の主役級の役はきっとマーゴットちゃんとアリシア・ヴィカンダーちゃん(「リリーのすべて」ほか)の2人で取り合いなんじゃないでしょうか?

それぐらい今、最も注目の女優さんなのです。ツインテールに網タイツ+ホットパンツでバットを振りまわして警官たちをぶちのめす、恋するハーレイ・クインにこっちが恋しちゃう確立100%なのです。
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しかも恋のお相手ジョーカーを「ダラス・バイヤーズクラブ」で全世界の女性が敗北宣言したくなるぐらいの美女を演じたジャレッド・レトが演じ、故ヒース・レジャーのインパクト大だった、この大役をカリスマ性たっぷりに演じちゃってます。
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もうこの二人の傍若無人な行動を眺めているだけで、なんか楽しい~!ってなっちゃうんですよね。シリアス路線なものから「アントマン」、「デッドプール」と明るいタッチのヒーローものが増えている昨今、『スーサイド・スクワッド』はクレイジーでポップなだけに、大ヒットしているのも当然ですね♪
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 この他にもヴィランの一人、ウィル・スミス演じるデッド・ショットは世界最高の狙撃手にして、一匹狼的殺し屋として登場。愛娘ゾーイに対してだけは優しいパパさんなので、ゾーイのためならどんな事も犠牲にするという、そこだけのやり取りだと本当良い人!笑。いつもなら異星人や悪党から地球を救いまくっているウィル・スミスが自ら悪党を演じる訳ですが、いつもの俺様・ウィル様的な存在感というより、あくまでもチームの一員としてのウィル・スミスがなんかかっちょいい。しかも天性のスター性があるから、キメショットになると、眩し過ぎるほどその存在が際立つんですよね。やっぱウィル・スミス、格好いいですよ。
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 とは言え十中八苦、本作を観た後はハーレイ・クインにメロメロになっちゃって、ハーレイ・クインのスピンオフ映画、カモン!と思わなくもないですが、マーベル映画のようにDCコミックスも今後、ヒーロー映画を続々作り続けるので、近くまたスクリーンで彼らに出会える日も近いハズ!ということで先ずは本作を是非スクリーンで観て下さいね♪

By,M
(C)2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC,,RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC


『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』

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 こんにちは、女住人Mです。夏休みも終わり、これからの季節は大人のための映画が続々公開されます。今回ご紹介する作品はまさに大人な恋愛を描く、9/3公開『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』です。
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 監督は♪ダバダバダ、ダバダバダ♪のテーマ曲でお馴染「男と女」のクロード・ルルーシュ、そして音楽はそのダバダを生み出したフランシス・レイ。これまでも数々の作品でタッグを組んだ二人が大人の愛の物語を紡ぐと聞けばそれだけで本作を観たい!と思う方も多いハズ。

 主人公のアントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は映画音楽の作曲家。ボリウッド映画製作のためインドを訪れ、そこでフランス大使の妻アンナ(エルザ・ジルベルスタイン)と出会います。愛する夫の子供を授かりたいと願う彼女は聖母アンマに会うために巡礼の旅に出かけ、アントワーヌはしばしの休息を求めそれに同行することになります。
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 互いにパートナーがいる者同士、しかも満ち足りた生活をしている者同士なのですが、出会ってしまったことで、何かが変わってしまいます。つまり二人が惹かれ合っていけば行く末は不倫なのですがルルーシュ監督にとって、"確かなものなんてない、特に人が恋に落ちることにおいては"、というのが大前提。ルルーシュ監督はこう言います。「誰かが誰かを深く愛していても、別の人間を好きになることもあるということを描きたかった。私にとって愛はあらがうことのできない麻薬のようなものだ」と。アムールの国フランスに生まれ、今年79歳を迎える巨匠がこう言い切るんです。そこに不倫の文字を出す方が野暮というものです。そうですよ、落ちてしまったことに関してはしょうがないんです。
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しかも二人の男女間で交わされるやり取りは巨匠と言われる人が作り出すような成熟した大人のそれではなく、むしろ瑞々しく、初々しい。アンナとアントワーヌは戸惑いながらも恋に落ちる様々な予感を意識していく。そんな心の有り様を丁寧にナチュラルに描いていくのが本作なのです。
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(75歳で初めて訪れたインドに魅了されたルルーシュ監督。全編インドで撮影されたので、異国の地の風景も見所。
インドでもルルーシュの手にかかればそこにはエスプリが漂います♪)

 そして、まさに愛、アムールな物語の魅力をさらに倍増させているのが本作のキャスティング。才能に溢れ、自信家だけど可愛げも持ち合わせるアントワーヌに「アーティスト」でアカデミー賞主演男優賞も獲得したジャン・デュジャルダン。あの屈託のない表情で微笑まれたら世の女性なら大概のことはOKしてしまうでしょう。ともすれば、鼻もちならない男性になったかもしれない役をデュジャルダンが演じたからこそ「もう、しょうがないな~」と許してしまう。そんないろんな意味での包容力ある男性、彼以外だったらジョージ・クルーニーぐらいしか演じられませんぜっ。
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アンナを演じるエルザ・ジルベルスタインも品があり、大人な分別を持ち合わせていると思える反面、少女的眼差しをのぞかせる表情に、殿方もノックアウトなハズ。加えて、アンナの夫サミュエルをクリストファー・ランバードが演じた所もミソ!1980年代の彼の活躍を知っているとより味わいも増します。誰からも愛され、妻を心から愛しているのに裏切られてしまう夫。この映画、サミュエル目線で観てしまうともうたまらない・・・本当に恋愛において確かなことなんてないのね、と。
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 映画は二人の葛藤を象徴するかのようにいくつかの夢や幻といった印象的なシーンも織り交ぜられます。出会ってしまった二人の恋のエンディングも夢か幻なのか・・・・
大人の"愛の前奏曲"、是非ご堪能ください。

追伸、
クロード・ルルーシュ監督×音楽フランシス・レイで描く「男と女」が今年製作50周年を記念してデジタル・リマスター版で蘇ります。シネマイクスピアリでは11/5(土)からの公開、こちらもお楽しみに♪
By.M
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