2015年7月アーカイブ

『ミニオンズ』

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 酷暑はまだまだ続きますが皆さん、夏バテは大丈夫ですか?女住人Mです。これだけ暑いとやる気もなくしますが、家にいてもただ暑いだけ・・・そんな時はやっぱり映画館が一番です♪
さて、そんな暑い夏はあまり小難しいことを考えることなく、心の赴くままに楽しめる映画を観たくなりますよね。そんな時にうってつけの映画を今回はご紹介します。3週に渡ってご紹介してきた夏のオススメアニメーション第4弾、7/31(金)公開の『ミニオンズ』です。
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 ミニオンは大ヒット人気アニメ「怪盗グルー」シリーズに出てくるキャラクター。最初にミニオンたちを目にした時は小さくて、黄色い、へなちょこなキャラクターが世界中で、しかも日本でもこんなにも愛される存在になるとは思ってもみませんでしたが、今やもう大人気。バナナが大好きだから大抵「バ~ナ~ナ~」みたいなことしかしゃべってないし、他には何をしゃべっているかよくわからない。なのに何を言っているのかはだいたいわかるというのがミニオンの凄いところ。表情や動きも豊かですからね。イタズラ好きでやることも豪快で、その上ドジっこで、単体でも可愛い上に団体行動した時がまたたまらない。本当に愛すべきキャラです。
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 本作はいわゆるスピンオフ映画ですが、「怪盗グルー」シリーズを観たことがなくても、この笑いに乗り遅れることなく楽しめる1本なのでご安心を!何せシリーズを通してミニオンたちの全貌がはっきりと語られたことはなかったんです。つまり誰もミニオンズの正体を知らない・・・そんな彼らの秘密がついにこの映画で明らかになります。
 
 黄色い単細胞の生命体だったミニオンたちは長い時間をかけ進化する過程で様々な時代を生き、その時々のボスに仕えてきました。なぜなら彼らの生きがいは最強最悪のボスに仕えること!(そうだったのか・・)が、ミニオンたちのヘマで大概そのボスを殺してしまうことに・・・ついにはボスがいなくなったミニオンたちは生きる希望を失う中、ケビン、ボブ、スチュアートという3人(匹?)で最強最悪のボス探しに世界中の旅に出かけます。そして世界中から悪党が集まるコンベンション<大悪党大会>でついに最強のボス!?女悪党スカーレットに出会うのです。
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彼女の欲する英国女王の冠を強奪しようとケビンたちはロンドンに渡り、奮闘するのですが良かれと思うことは全て裏目、裏目。でもミニオンたちは基本、純粋無垢なので悪気もさらさらなく「あれ、やっちゃったよ?まっ、いいっか!わーい、わーい!」で済ませてしまう。この連続なのでもう観ている方はただ笑うしかない。だって可愛いんだも~ん。
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これまでの「怪盗グルー」シリーズはまさかの感動があったり、ひねりがあったりで、そのストーリー展開の面白さもあってどんどんファンが増えているというところはありますが、もう『ミニオンズ』に関しては難しいこと抜きにして、ミニオンたちと一緒に心の底から笑い、はしゃぐ、それに尽きます。だって可愛いんだも~ん。
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 物語のエンディングにはなんとあの人も登場し、これまで「怪盗グルー」シリーズをご覧になっていれば、続編が楽しみになること間違いなし!そして観たことがなかった方は必ずや遡ってシリーズを見たい!と思ってしまう展開で物語の幕が閉じられます。
まさに大人から子供までどなたがご覧になっても楽しめる1本、冒頭から大爆笑ですよ~。

By.M
(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

『バケモノの子』

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 皆さんこんにちは、女住人Mです。連続でお届けしている夏のオススメ・アニメーションの第3弾は日本代表、7/11(土)から公開の『バケモノの子』をご紹介します。
 日本の夏の風物詩と言えばここ何年もジブリアニメだったのですが、"ポスト宮崎駿"という呼び声がどんどん高まり夏のアニメーションの新しい顔、と言えば細田守監督が手掛ける"細田アニメ"でしょう。「時をかける少女」、「サマーウォーズ」、「おおかみこどもの雨と雪」と生み出す作品は国内外問わず世界中の観客の心をつかんでいます。
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 そんな注目の細田監督の最新作は出会うはずのなかった人間の子供とバケモノが出会うことで始まります。母親を亡くした少年・蓮(声:宮崎あおい)は孤独を抱え渋谷の街をさまよっていた時に熊徹(声:役所広司)という名のバケモノに出会います。
蓮は強さを身につけるためにバケモノたちが住む"渋天街"に移り住み九太という名を与えられ、熊徹の仲間、百秋坊(声:リリー・フランキー)や多々良(声:大泉洋)に見守られながら熊徹の元で修業をしていきます。バケモノの世界を束ねる次の宗師候補の一人でありながらも熊徹は宗師になる条件の1つ、弟子を持たないこれまた天涯孤独の身。そんな熊徹の元で成長していく九太との子弟関係を描いていきます。

 細田アニメの魅力はいろいろ上げられると思いますが、私はやっぱり疾走感や登場人物たちの生き生きとした感じ、その躍動感に無条件でワクワクします。今回も映画の冒頭からワクワクMAX!いい映画は始まってすぐ「これはいける」と気持ちを高まらせてくれるものです。また本作を含め細田監督は身の周りで起きたことを題材に映画を作ることが多く、監督の想いがダイレクトに物語に反映され、メッセージもはっきりしている気がします。「おおかみこども~」では細田監督の周囲が出産ラッシュだったので「親になるってどういうことかな?」という所から物語が作られたのですが、その細田監督ご自身に息子さんが出来たことが『バケモノの子』を作る大きなきっかけになったそうです。「親子ってなんだろう?」、「大人は子供に何が出来るんだろう」。そんな細田監督の想いが本作でも真っ直ぐに表現されています。
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 主人公・熊徹はガサツで自分勝手で一人ぼっち。誰からも相手にして貰えなかったから何をするにも自分一人の力でやってきたし、誰も頼れないから一人で強くなるしかなかった。誰からもアドバイスを受けることもなく、我流で生きてきたので、突如現れた九太という子供に右往左往。
子供がどういう存在かがわからないし、九太自身も(子供なので)身勝手。九太も自身の境遇のため孤独を抱えているから、一人で踏ん張ることしか知らないし、誰を頼ることもしない、頼るということさえ知らない・・・。大人を信用していないくせに、大人な態度すら取れない熊徹を腹立たしいとさえ感じている。
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 でも二人は"孤独"だったからこそ身につけてしまった"勝気"な性格を持つ似た者同士。
だから反発し合っているんだよね、気心合えば一番の理解者になるだろうに、というのが手に取るようにわかる関係性。
そんな二人は熊徹の数少ない親友、百秋坊や多々良に助けられたりして互いに足りないことを補い、教えることで教わりながら、まさに理想の師弟関係を築いていきます。我らもいろいろな人と出会っていく中で、様々な局面で人生の師と仰ぎたくなるような人との出会いってありますよね。九太も熊徹だけでなく、いろんな人の影響の中で成長していきます。
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九太の成長を見ていると子供って勝手に一人で大人になっていく訳でなく、それは大人も一緒で、見守られているだけでもそれが支えとなって成長していくものなんだな、ということを改めて感じます。大人になると一人で何でも出来るように思えるから、一人で何かを手に入れているような錯覚を起こすけど、でも他者との出会いや繋がりがなければ世界はこれっぽっちも広がらないんだ、というのをこの映画を見て痛感・・・・日々の行動がお一人さま上手過ぎる私はちょっと反省したりもするのでした。

 物語は九太(声:染谷将太)が成長し、ひょんなことから人間の世界に戻り、彼が新たな世界を広げようとまた一歩を踏み出そうとするところから一気にテイストが変わっていきます。そこからは細田監督らしい"活劇"感溢れるこれまたワクワク展開なので是非スクリーンでお楽しみ下さい。

 そう言えば、以前このブログの中で「おおかみこども~」を取り上げた時も細田さんが描くテーマの根本にある"生きることの肯定"についてあげました。細田アニメでは生き辛い世の中でも生きていく上で「ありだ!」と肯定していける強さを主人公はいろいろな形で身につけていく気がします。息子さんが出来た細田監督はこれまで以上に、"人との繋がり"に特別な思いを込めながらこれからの子供たちの未来を肯定していく、そんな真っ直ぐな作品を作ってくれる気がします。既に次回作が楽しみ、楽しみ!

By.M
(C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

『インサイド・ヘッド』

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 やっとで梅雨も明けそうですね、女住人Mです。さて先週から夏のオススメアニメーションをご紹介していますが第2弾は皆さんお待ちかね、ディズニー/ピクサー長編アニメーション20周年記念作品7/18(土)公開『インサイド・ヘッド』をご紹介します。
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 皆さんには自分でも理由が全くわからないまま、イライラしたり、親に当たったり、「私はど~なってるんだ~」といった自分制御不能な時期を経験したことありませんでしたか?私にはバッチリありました。小学生ぐらいまでは(自分で言うのもなんですが)割と良い子キャラだったのですが急に豹変し"私に構わないで!"オーラをビンビンに発し、親も私を腫れものにさわるようにしていた時期が・・・。そしてそれがいわゆる"思春期"だったと気付くのはまた後のこと。「この映画を観ていれば、私の中学生時代はもっと穏やかなものだったかもしれない・・・」そう感じざるを得なかった・・・。そう、本作は思春期を迎えたある少女の感情の揺れや気持ちの変化をアニメーションで描いた物語。実際、本作の原案・脚本・監督を担当したピート・ドクター監督の娘さんが11才ぐらいの頃、それまで明るい女の子だった彼女が急に不機嫌になってしまい「娘の頭の中では一体何が起きているのか?」と思ったことから着想されたお話です。
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 主人公は11才の主人公ライリーの頭の中に存在する5つの感情たち~ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、そしてカナシミ。ライリーと共に生まれた彼らはみんな個性が違うけれど彼女を幸せにするために日々奮闘しています。でもライリーを悲観的にさせることしか出来ないカナシミの存在にヨロコビはちょっと懐疑的。そんな時にヨロコビとカナシミがライリーの感情をコントロールする部屋から放り出されてしまいます。それはちょうど、ライリーが見知らぬ街へ引っ越しをしたことをきっかけに気持ちが不安定になった時・・・。残された感情だけでライリーは一体どうなってしまうのか、そしてカナシミの存在理由って一体なんなんでしょう。
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 擬人化された感情たち、経験した記憶が収められる光のボール、その中でも重要な記憶と認められたボール、名付けて"コア・モメリー"、私たちの頭の中は一体どんな風になっているかな?と映画を観ている間、想像を膨らませるのが楽しくなる本作。その中でも私のお気に入りは忘れられた記憶が行き着く"記憶のゴミ箱"。ここにはライリーが幼い頃に作ったイマジナリー・フレンド"ビンボン"がいます。ビンボンは幼い頃のライリーには決して欠かすことが出来なかった想像上の友達。でも実際に友達も出来て、ライリーが成長した今は忘れられた記憶の1つになっています。楽しい記憶はいつまでもずっと永遠に心に持ち続けたいのに、幼かった頃の記憶って知らぬ間に忘れていきますよね。「これ一生離さない!」と思っていた想い出の品もすっかり忘れたり、興味をなくしたり、思い返せばあの熱い想いは一体何だったのか?なんて思うこともあるのですが、"ビンボン"とライリーの関係性を描くシーンでその答えが描かれます。
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そしてその記憶のメカニズムは実は子供が大人へ成長していく通過儀礼として必要なことなんだ!と思わせてくれる流れになっていて、私はこの映画で"ビンボン"の巻は大号泣、とってもお気に入りなワンシーンとなっています。私にとっての"ビンボン"こと、あのモンチッチ(年がバレる)が実は私の人格形成の上でとても重要なアイテムだったなんてこの年になって知りました・・・。この映画を観て久しぶりにあの頃肌身離さず小脇に抱えていたモンチッチに本当の意味での決別が出来た気さえしています。
 
 肝心な「カナシミって必要なの?」問題に関して・・・。幼い時の感情はきっとシンプルに単体でその人間に作用していたのだと思います。でも、この物語の中でも5つの感情は次第と相互に影響を受け与え始めていきます。シンプルだった感情がどんどん複雑化していく、これって感情の、人間の成長の1つなんですよね。そして大人になった我々は人生楽しいことだけ起きればいいのに、って思うけれど辛いこともあるから人生楽しかったりするもんだよね、ということを知っています。それと同じようにやっぱり感情にもカナシミが必要であることは実はもう知っているんですよね。そんなことを改めて優しい気持ちで感じさせてくれるのがこの映画なのです。
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 大人になってもなお、自分の気持ちがわからなかったり、コントロールが出来なくなったりすることもありますが、そんな時には5つの感情たちのことを思い出すとちょっと気持ちが楽になるかもしれませんね。もちろん、子育て奮闘中のお父さん、お母さんにとってもこの映画は大切な1本になると思います!
 シネマイクスピアリではディズニー映画恒例"ここだけにしかない『インサイド・ヘッド』フォトロケーション"が登場していますので、ご来館の際には是非記念撮影をしてくださいね。
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By.M
(C)2015 Disney/Pixar

 皆さん、こんにちは女住人Mです。7/4(土)に初日を迎えた「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」も大ヒットスタートを切り、いよいよ夏映画本番です。夏休みになるとアニメ映画が増えますが、今週から連続でお子さんはもちろんのこと、大人の方にも楽しんで頂けるクオリティの高いアニメーション作品をご紹介します。先ず第一週目は7/4(土)より大ヒット公開中、イギリス代表アードマン・アニメーションズ製作の『映画ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』です。
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 "ひつじのショーン"はNHK Eテレで放映中の人気クレイ・アニメーション。製作のアードマン・アニメーションと言えば「ウォレスとグルミット」シリーズでもお馴染、アカデミー賞を4度受賞した経験もあります。「ちゃんとを見たことはないけれどキャラクターは知っているよ」という方も多いかもしれません。実際、キャラクターの人気は本国イギリスよりも日本の方が熱いんだそうです。

 主人公は牧場主の元で暮らしているひつじのショーンとその仲間たち。ルーティンワークのような毎日にいささか飽きていた彼らはあるいたずらをしかけます。が、そのいたずらのせいで牧場主は眠ったままトレーラーに乗って大都会へ!彼の忠実な牧羊犬ビッツァーはすぐに追いかけ、ショーンもやり過ぎを反省、やっぱりご主人様がいないと寂しいので牧場主とビッツァーを探しに大都会へ向かいます。しかし、野放しになっている動物を捕獲する意地悪な動物捕獲収容センターの職員に追われたり、大都会には危険がいっぱい。ショーンの後を追いかけてやってきた仲間たちと一緒に彼らは無事、牧場主やビッツァーと会えるのか?無事、牧場に戻れるのか?というのが今回の物語です。
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 クレイ&ストップモーション・アニメーションである本シリーズは、キャラクターは粘土(クレイ)で作られ、それを少しずつ動かし写真を撮影。これを繰り返して撮影された映像は25枚で1秒の映像になります。1週間で40~50ショットの撮影が出来るのですがそれを繋げてもだいたい2分30秒の映像にしかなりません。この気の遠くなるような作業を経て映画(今回の尺は85分)が完成するのですが、この地道で根性がいる手順を思うだけで胸熱です!

しかもキャラクターたちの顔や体にはアニメーターたちの指紋が残っていたりするので、その手作り感や温かさが何とも言えません。アードマン・アニメーションの魅力はこの作業工程から得られるぬくもりなんです。もともと愛くるしいキャラクターたちの造形にこの温かみがプラスされて、彼らが人形とは思えない程生き生きした、可愛らしい存在になってくる。作り手たちの愛情が透けて見えるんですよね。
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そして本シリーズにはセリフがありません。でも、愛情が注がれ、ひと手間もふた手間もかけられたキャラクターたちは表情だけで雄弁に多くを語ります。それはまるでサイレント映画の方が観ている者の想像力をかきたてるかのごとしです。今回は映画のベーシックな形"行って戻ってくるお話"ですが、その中にイギリスらしい笑いや、アイテム、音楽(プライマル・スクリームがあんなところで!)、そして追いつ追われつのドキドキ展開、ハラハラの後にドジっ子展開があるなど見事に物語に緩急があって、あっと言う間の85分なのです。特に、アクシデントで記憶がなくなった牧場主をどうやってショーンたちが救うのかは見もの!

映画冒頭の伏線をしっかりと回収するクライマックスの展開にこの映画、大ヒット&号泣映画の代名詞「トイストーリー3」に匹敵する楽しさと感動があることをお知らせいたします。もう間違いなく、本作は子供から大人まで楽しめる作品なんです!

 オープニングから考えられたカメラワークで笑いもとり、エンドクレジットが終わるまで愛情がたっぷり注がれている、
『映画ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』は7/4(土)よりシネマイクスピアリにて大ヒット公開中です。

By.M
© 2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

『アリスのままで』

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 こんにちは、女住人Mです。夏本番を前に、今週もしっとりとした映画をご紹介いたします。主演のジュリアン・ムーアが本作の演技で今年のアカデミー賞主演女優賞ほか数々の栄光に輝きました、6/27(土)から公開の『アリスのままで』です。
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 ジュリアン・ムーア、今年55歳。40歳を超えるとたちまち役が少なくなると言われるハリウッドの映画業界の中で、コンスタントに映画に出続け、主演も張っているジュリアンは結構、稀な存在な気もします。もちろん、彼女の美貌によるものもあると思いますが、役によっては年齢相応に崩れた身体のラインもそばかすの肌も躊躇することなく露出する堂々とした様や何はともあれ確かな演技力があるからでしょう。
ジュリアンはこれまで本作を含め5回もオスカーでノミネートされ今回初受賞、世界三大映画祭(アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞)で女優史上初の主演女優賞を制覇しました。
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 本作で彼女が演じたのは50歳で若年性アルツハイマー病を発症した女性。高名な言語学者としてコロンビア大学で教鞭を取り、夫と子供たちからも愛されまさに人生の充実期にいたアリス(ジュリアン・ムーア)。そんな彼女が突然、講義で単語が出てこない、いつものランニングコースを走っていて迷子になるといった体験をします。病院を訪れたアリスに下された診断結果は若年性アルツハイマー病・・・。
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アルツハイマー病は老人の病気と考えられていますが、患者の10%が若年性の65歳未満で発症し、現在のところ症状を緩和することが出来ても進行を遅らせることは出来ないと言われています。そしてアリスは言語学者としてその人生を研究に捧げていた身でありながら、病のせいで自分のアイデンティティの最たるものとも言える言語能力を失くしていくのです。(なんという因果・・・)さらに追い打ちをかけるようにアリスの症状は家族性アルツハイマー病、つまり遺伝性であることも伝えられます。自分だけでなく、自分の子供も同じ病にかかる可能性があると。
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(アリスの次女リディアを演じるのは「トワイライト」シリーズでお馴染、そして実は子役時代からその演技力はお墨付きのクリステン・スチュワート(右)。自由に生きるリディアは家族の中ではちょっと浮いていた存在でしたが、アリスの病気がわかって以降、一番母親の気持ちに寄り添う存在となります。)

 不安にさいなまれるアリスを見ながら「自分だったらどうするか?」そんな投げかけを誰しも自身にしてしまい「正直、こういう題材は辛い・・」と思いがちなのですが、この映画は単にそういった状況に置かれるアリスと家族の様を描くと言うより、記憶を失っていくとわかっていてもそれでも自分自身は失わない、記憶という過去的なものが喪失しても今という瞬間を生き(それはあっという間に過去にはなるけれど)そこに自分を見出そうとするアリスの凛々しさが描かれるところに心が掴まれます。

記憶を失った時にその人はその人でなくなるのか、記憶の喪失はその人自身がなくなってしまうことなのか。そんなことよりもその瞬間、瞬間でも自分自身を見失わずにいること、自分を保とうとするそのことが"アリスのままで"いること、自分であり続けることではないのか、アリスがそんな風に病と闘っているように感じられ、そこにはアリスの気高さすら伺え、それはジュリアンが演じたからこそ得られるものだとも思えます。
 人は記憶、想い出に囚われがちではあるのですが、それがなくなった時にこそ表れるものこそがその人の本質なのでしょう。そして"今"と向き合ったことで導き出す、彼女が下す最終的な決断に「自分だったらどうするだろう」とさらに問いかけることになるのですが・・・
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(戸惑いながらもアリスを温かく包む夫のジョンはアレック・ボールドウィンが演じます。)

 本作の監督と脚本はウォッシュ・ウェストモアランドとリチャード・グラッツァーが手掛けましたが、リチャード監督はALS(筋委縮性側索硬化症)という次第と話すことも身体を動かすことも出来なくなる難病に冒されながらも本作を完成させ、ジュリアンのオスカー受賞のニュースを聞いた約2週間後にこの世を去っています。ジュリアンの確かな演技力もさることながら、アリスに自身の生き様を投影し、アリスのように自分の人生を生き抜いた彼の魂がこの映画に宿っていることも、この映画に強さを感じる所以かもしれません。

By.M
(C)2014 BSM Studio. All Rights Reserved.

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