『アリスのままで』

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 こんにちは、女住人Mです。夏本番を前に、今週もしっとりとした映画をご紹介いたします。主演のジュリアン・ムーアが本作の演技で今年のアカデミー賞主演女優賞ほか数々の栄光に輝きました、6/27(土)から公開の『アリスのままで』です。
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 ジュリアン・ムーア、今年55歳。40歳を超えるとたちまち役が少なくなると言われるハリウッドの映画業界の中で、コンスタントに映画に出続け、主演も張っているジュリアンは結構、稀な存在な気もします。もちろん、彼女の美貌によるものもあると思いますが、役によっては年齢相応に崩れた身体のラインもそばかすの肌も躊躇することなく露出する堂々とした様や何はともあれ確かな演技力があるからでしょう。
ジュリアンはこれまで本作を含め5回もオスカーでノミネートされ今回初受賞、世界三大映画祭(アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞)で女優史上初の主演女優賞を制覇しました。
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 本作で彼女が演じたのは50歳で若年性アルツハイマー病を発症した女性。高名な言語学者としてコロンビア大学で教鞭を取り、夫と子供たちからも愛されまさに人生の充実期にいたアリス(ジュリアン・ムーア)。そんな彼女が突然、講義で単語が出てこない、いつものランニングコースを走っていて迷子になるといった体験をします。病院を訪れたアリスに下された診断結果は若年性アルツハイマー病・・・。
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アルツハイマー病は老人の病気と考えられていますが、患者の10%が若年性の65歳未満で発症し、現在のところ症状を緩和することが出来ても進行を遅らせることは出来ないと言われています。そしてアリスは言語学者としてその人生を研究に捧げていた身でありながら、病のせいで自分のアイデンティティの最たるものとも言える言語能力を失くしていくのです。(なんという因果・・・)さらに追い打ちをかけるようにアリスの症状は家族性アルツハイマー病、つまり遺伝性であることも伝えられます。自分だけでなく、自分の子供も同じ病にかかる可能性があると。
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(アリスの次女リディアを演じるのは「トワイライト」シリーズでお馴染、そして実は子役時代からその演技力はお墨付きのクリステン・スチュワート(右)。自由に生きるリディアは家族の中ではちょっと浮いていた存在でしたが、アリスの病気がわかって以降、一番母親の気持ちに寄り添う存在となります。)

 不安にさいなまれるアリスを見ながら「自分だったらどうするか?」そんな投げかけを誰しも自身にしてしまい「正直、こういう題材は辛い・・」と思いがちなのですが、この映画は単にそういった状況に置かれるアリスと家族の様を描くと言うより、記憶を失っていくとわかっていてもそれでも自分自身は失わない、記憶という過去的なものが喪失しても今という瞬間を生き(それはあっという間に過去にはなるけれど)そこに自分を見出そうとするアリスの凛々しさが描かれるところに心が掴まれます。

記憶を失った時にその人はその人でなくなるのか、記憶の喪失はその人自身がなくなってしまうことなのか。そんなことよりもその瞬間、瞬間でも自分自身を見失わずにいること、自分を保とうとするそのことが"アリスのままで"いること、自分であり続けることではないのか、アリスがそんな風に病と闘っているように感じられ、そこにはアリスの気高さすら伺え、それはジュリアンが演じたからこそ得られるものだとも思えます。
 人は記憶、想い出に囚われがちではあるのですが、それがなくなった時にこそ表れるものこそがその人の本質なのでしょう。そして"今"と向き合ったことで導き出す、彼女が下す最終的な決断に「自分だったらどうするだろう」とさらに問いかけることになるのですが・・・
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(戸惑いながらもアリスを温かく包む夫のジョンはアレック・ボールドウィンが演じます。)

 本作の監督と脚本はウォッシュ・ウェストモアランドとリチャード・グラッツァーが手掛けましたが、リチャード監督はALS(筋委縮性側索硬化症)という次第と話すことも身体を動かすことも出来なくなる難病に冒されながらも本作を完成させ、ジュリアンのオスカー受賞のニュースを聞いた約2週間後にこの世を去っています。ジュリアンの確かな演技力もさることながら、アリスに自身の生き様を投影し、アリスのように自分の人生を生き抜いた彼の魂がこの映画に宿っていることも、この映画に強さを感じる所以かもしれません。

By.M
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