『おみおくりの作法』

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 こんにちは、女住人Mです。気付けば3月、別れそして旅立ちの季節ですね。
今回はそんな時期にぴったりな映画、3/7(土)公開の『おみおくりの作法』をご紹介します。
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 主人公はロンドン南部、ケニントン地区の公務員ジョン・メイ(エディ・マーサン)。ひとりきりで亡くなった人の葬儀を執り行うのが彼の仕事。本作は既に都内では上映していて大大ヒット中なので「観たいと思ってたんだ〜」という方も多いかもしれません。お待たせいたしました! もともと監督・脚本・製作をつとめたウベルト・パゾリーニさんが新聞に掲載されていた“親類縁者なく亡くなった人の葬儀を手配する民生係”の記事を読んだことから作られた物語で実際、ロンドンの各地区にはジョン・メイのような仕事をする人がいるそうです。高齢化社会と核家族が進む日本でもいわゆる、“孤独死”は社会問題にもなっているぐらいですから、これはよその国の物語どころではないですね。

そんな“孤独死”を迎えた人を最後にみおくるジョン・メイは公務員、独身、44歳というキーワードからとても想像しやすいキャラクター。決まった時間に起き、毎日同じような服を着て、同じようなものを毎日食べ、車が通らないとわかりきった通りでも必ず左右を確認する、彼の人生そのものがシンプルで整然としています。感情を露わにすることはなく、いつも控えめで、些細なことですら冒険することが苦手な彼はちょっと風変わりで孤独な人間に見えますが、決して彼自身が寂しい人とは描かれません。
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亡くなった人の身寄りを必死に探し、遺品をヒントにその人の宗派を探し当て、お葬式で流す音楽を決め、弔辞を書きおみおくりをする。ジョン・メイは一人で亡くなった人を憐れむようなことはなく、ただその人が生きていたこと、そして亡くなったこと、その人自身への敬いの気持ちをもっているからこそ、彼の真摯な行動は純粋に心を打たれます。なのに、丁寧過ぎる彼の仕事ぶりは上司からは評価されず解雇されてしまいます。この世知辛い世の中、それはそれでわからんでもないですが、「そりゃないよ〜」な出来事です。そして最後の仕事、向かいに住むビリーのおみおくりに着手するのです。向かいにずっと住んでいたはずのビリーという存在を全く知ることなく生活をしていたことに驚きながらも・・・
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(いつもやらないことも挑戦し始める、ジョン・メイはどこか可愛い。)

 これまでも丁寧に真心を込めて仕事をしていたジョン・メイですが、いつも以上に必死に彼の人生を辿ります。たった一人で死んでいったビリーだったけれども彼の人生は決して取るに足りないものなんかじゃなかったハズだ、どんな人の人生も尊いんだ、そんなジョンの確固たる心の叫びが聞こえてくるかのようです。そしてビリーの生きた証を刻もうとするかのようなジョンの行動は彼自身がひたむきにこれまでやってきたことへの自己肯定も含んでいるようにも思えてきます。一人ぼっちで死んでしまったビリーだったけれども、彼の生きていたことに意味が見出せることが出来たなら、自分の人生も肯定出来る、そんなジョンの切ない願いが・・・・

目立つこともなく、決して人が進んでやらないことを丁寧に実直にやり続けてきたこの男の人生が少しでも救われてほしい、報われてほしい、こんな人だからこそ人生に祝福されてほしい、次第とそう願わずにはいられなくなるのです。そしてそんな控えめだったジョンの人生が仄かに彩る兆しが見え始めます・・・・
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(孤独だったジョンと心を通わすようになるケリーを演じるは「ダウントン・アビー 華麗なる英国貴族の館」のメイド長・アンナで
お馴染みジョアンヌ・フロガット!アンナは不運が続くだけにケリーはどうなの〜?)

 God in the Detail.(神は細部に宿る)。
ジョン・メイの人生は細部に真心を込めていたからこそ、彼の人生は豊かだった。
でも人生は時に残酷なことも起こりうる・・・・

 最後に個人的ではありますが、ジョン・メイを演じたエディ・マーサンは私の大変お気に入りの役者です。ただこれまでは、暴力をふるう男だったり、うだつの上がらない亭主だったり、意地悪な上司だったり、ちょっと気持ち悪い人だったりと脇役としてかなりキャラ立ちするタイプの俳優さんでして、本作を観ながらも私は「いつこの人は逆ギレして豹変するんだ」と別の意味でちょっとハラハラしていました(笑)でもそんな彼が本作では初めて主役、しかもこんなに素敵な役を演じたのでちょっと感無量!私にはどんな役でも真摯に向かいあうマーサンとジョン・メイの生き様が重なって見えたのです。LOVE・マーサン!!
そんなマーサンによる、マーサンのための、マーサン映画を是非スクリーンでご堪能ください。

By.M
© Exponential (Still Life) Limited 2012

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