『紙の月』

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 皆さん、こんにちは。女住人Mです。先週は東京国際映画祭が開催されていました。世界中のいろいろな国の映画が集まり、こういう機会でないと出会えない映画を観られるというチャンスがあるのは良いですね。さてその東京国際映画祭で本年度「観客賞」と「主演女優賞」をW受賞し、既にその作品評価が高まっている『紙の月』を今回はご紹介いたします。
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 時代はバブル崩壊後の1994年。梅澤梨花(宮沢りえ)は夫(田辺誠一)と二人暮らし。わかば銀行の契約社員として働く梨花は丁寧な仕事ぶりで上司や顧客からも信頼を得ていて何不自由のない生活を送っているように見えますがそんな折、大学生の光太(池松壮亮)と出会います。導かれるように光太と逢瀬を重ねるようになる梨花は彼と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまいます。最初は1万円を借りて、すぐ元に戻すのですがこれが全ての始まり・・・この日から金銭感覚と日常が少しずつ歪み、彼女の人生は暴走し始めます。

 原作は「八日目の蝉」を始め、出版される小説どれもが傑作な直木賞作家・角田光代さんの同名小説。メガホンをとるのは昨年、日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した「桐島、部活やめるってよ」を送り出した吉田大八監督です。
本作は小説もあり、NHKで原田知世さんが主人公の梨花を演じたTV版もあるので映画がいったいどんなアプローチをするのか、どんな世界観を見せてくれるのか、ここ数年では舞台女優としても超人的才能を開花させている宮沢りえさんが堕ちていく女をどんな風に演じるのかが最大の魅力でしたが、もうそれはそれはとっても映画的な1本になっています。
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(宮沢りえさんの相手役光太を演じる池松壮亮くんがまた良いね!色っぽいね!)

 私は小説を既に読んでいたので、どうしてもそれとの比較から映画を見ていました。小説では梨花がなぜ横領という悪事を重ね、光太との逢瀬にもズボズボとハマっていったかの理由は語られるのですが、本作では梨花の心理描写は至ってドライ。確かに夫との関係にその原因があるようだという気配はあっても、「こういう扱いをされたら仕方ないわ」といった明確に同情を与えるような説明はなく、むしろ主人公に共感したいと思わせる観客を引き離すかのように梨花はどんどん罪を重ね、嘘を重ね、光太との日々を泥沼化させます。

でもそうであるならこの映画に距離感しか感じられず、梨花という女性に何の興味を持てない気がするのですが、物語が進めば進むほど、つまり梨花が罪を重ねれば重ねる程彼女が輝きを得ていくので、この映画から目が全く離せなくなるのです。“転げ落ちるような”と表現されがちな梨花の人生はむしろ疾走し、輝きを取り戻すかのような人生へとどんどん加速するのです。これはやはり梨花を宮沢りえさんが演じたからというのが要因の1つでしょう。
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(梨花の内面を代弁するかのようなキャラクター、同僚の相川恵子を演じるのは大島優子さん。
物語のキーポイント的な役割も担います。)

 でももちろん、梨花が罪を重ねることで自分を解放していくことが正しいことのように描かれている訳ではなく、それは嘘ものであるから決して正しい場所に梨花は導かれません。そして迎える映画の終盤、梨花の悪事を感じ取り彼女を追いこむ同僚の事務員隅より子を演じる小林聡美さんとの対峙シーンはまさにこの映画のクライマックス。これまで客観的な他者としての存在だった隅ですが、このシーンで彼女が梨花に一旦寄りそうことで梨花の内なるものを引き出し、その上で彼女に最後の引導を渡すのです。もうこの二人のシーンは圧巻!!
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(いつものイメージとは異なる役を演じる小林聡美さんがまた上手い!!!さすが女優さん!)

 そして梨花の人生が行き着くところに行き着いてしまった・・・と思った瞬間、これこそこの映画が傑作と言わざるを得ない、あるシーンへと導かれるのです。その時、大八監督は梨花の人生や行動の良し悪しを問うことを求めてこの映画を作ったのではなく、それを全て取っ払った所から始まる、彼女の人生のスタートを描こうとしたんだ、とも思えたのです。そして宮沢りえさんが梨花を演じなくてはこの映画は成立しなかった、と最後の最後にまた痛感するのでした。

 さて、本作の公開を記念して11/8(土)〜11/14(金)までの1週間、毎月の旧作上映イベント<キネマイクスピアリ>で「桐島、部活やめるってよ」も上映いたします。(上映時間は11:00、13:20、18:30の3回 )是非、そちらを復習してから本作に挑んで頂けると2倍、3倍と楽しいですよ。さらに、なんと吉田大八監督のティーチイン付き『紙の月』上映イベントの開催も決定です!
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【開催日時】11/24(月・祝)15:35の回、本編上映後、ティーチイン実施(18:20終了予定)
チケット発売は11/12(水)10:00〜 劇場窓口/オンラインチケット「Myシート・リザーブ」にて一斉発売です。
くわしくは劇場HPのトップ画面をご覧ください。
『紙の月』は11/15(土)からシネマイクスピアリにて公開です。

By.M
(C)2014 「紙の月」製作委員会

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