『ジャージー・ボーイズ』

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 皆さんにとっての秋は何の秋ですか?食欲の秋に特化しないよう気を付けたい女住人Mです。今回ご紹介する作品は今度85歳になるとは思えない、現役バリバリのこの方の新作。クリント・イーストウッド監督『ジャージー・ボーイズ』です。
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 この映画は1960年代、ビートルズよりも前に世界を席巻した4人組のポップス・グループ“ザ・フォー・シーズンズ”の物語。代表曲の「シェリー」「君の瞳に恋してる」は今もなお世界中で愛されている名曲です。ニュージャージー州の貧しい街で生まれ(だから本作のタイトルは『ジャージー・ボーイズ』)、成功から一番遠い場所にいた4人の若者が音楽という武器一つで栄光を勝ち取っていきます。でもその輝きの影で裏切り、挫折、軋轢、別離が彼らを襲う・・・。紆余曲折の音楽人生を経て1990年、ロックの殿堂入りを果たすまでを描いていきます。
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 本作はブロードウェイでロングランヒットを記録したトニー賞ミュージカルの映画化。それをジャズやブルースに対する造詣が深く、自身の映画の音楽を手掛けたりもするイーストウッドが手がけるとなると期待するな、と言う方が無理な話です。しかもここ10年ぐらい、イーストウッドの生み出す作品のクオリティの高さといったら、あなた!尋常ありませんからね。実は全米公開された時には、ここ最近のイーストウッド監督作品としては批評家の評価が然程高くなく、興行自体も大きくヒットしなかったのですが、本編を観て「アメリカの評論家と観客は何をしとるねん!もうイーストウッドの円熟味とそれ故の余裕すら感じられる、こりゃ傑作じゃないかぁぁぁ〜」と思った訳です。

 肝心な“ザ・フォーシーズンズ”ですが、その名前を、彼ら自身を、楽曲タイトルを知らなくても、その曲はいろんな人がカバーをしているし、CMやら映画やらドラマやらで使われている名曲揃いで耳馴染みあるものばかり。そんな音楽が映画全編を彩り、かつそんな馴染みある曲の裏にあるドラマも(一部脚色はあるもの)わかるので、どんどん引きこまれちゃいます。

主要メンバーを演じる役者陣もリーダー格のトミー以外は全員舞台版で同じ役を演じていた経験者。イーストウッドは本作を映画化するにあたってスター役者がほしかった訳ではなく、物語を真に伝えるキャスティングを重視し、敢えてほぼ舞台版と同じキャストにしています。この選択はイーストウッドの熟練故の潔さと言えましょう。リードボーカルとなるフランキー・ヴァリの独特のファルセットボイスを持つ役者なんてそういませんし、イーストウッドにとってもフランキー・ヴァリをこんなに完璧に演じられる役者がもう存在するならそれでいいじゃないか、ってことだとも思うんです。それぐらい彼(ジョン・ロイド・ヤング)の声は神業です。
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 そして貧困な街で育ったが故に若い頃は悪事を重ね、ショービジネスという水もので猥雑な業界で駆け上がっていく彼らの奇跡を描くテンポがまた良い。仲の良かった仲間たちが成功と共にほころび、軋轢が生じてバラバラになってしまう。そんなありがちとは言える展開もザ・青春!
とにかく、熟練のイーストウッドが手がけているので、ほしい時にほしい曲がなり、決めてほしい時に決まる画がある。ただでさえ、素敵な音楽が全編流れている上に、イーストウッドがいろんな形で映画の魔法をかけるので観ていて心地よいったらありゃしないのです。
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(フランキーの声に魅了され4人をサポートするギャングのボスを演じるのはクリストファー・ウォーケン。
若い頃にミュージカル俳優でもあった彼を活かした場面も用意されてますよ。)

 挫折があろうとも、一度袖を分かつ時があろうとも、同じ夢を持ち、苦労を共有していたボーイズたちが年を重ね、心のわだかまりも全てチャラとする瞬間。そんなフィナーレに向かう本作のラストに心踊らない訳がない!

人生の酸いも甘いも知ったイーストウッドが描くからこそ、物語が軽やかで瑞々しく描かれる、そんな『ジャージー・ボーイズ』は9/27(土)からシネマイクスピアリにて公開中です。

By.M
(C)2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC ENTERTAINMENT

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