『とらわれて夏』

|

 GWに突入しましたね。もともとゴールデン・ウィークは映画業界の宣伝用語だったんですよね。皆さんこんにちは、女住人Mです。
今回は“私ごとですが、この監督の新作が常に楽しみでしょうがない”シリーズ、ジェイソン・ライトマン監督最新作5/1(木)公開の
『とらわれて夏』をご紹介します。
timage.jpg

 私が大好きなジェイソン・ライトマン監督は「ゴースト・バスターズ」の監督アイヴァン・ライトマンを父に持つ、現在36歳の若手監督。とは言え、長編映画監督デビュー作の「サンキュー・スモーキング」以降、「JUNO/ジュノ」、「マイレージ、マイライフ」、「ヤング≒アダルト」と現代的でユーモアのある作品を作り続け、既に2度もアカデミー賞にノミネートされている実力派。都会的な映画を得意とする彼の新作の舞台は1987年、アメリカ東部の静かな田舎町とこれまでとは全く違います。「なぜライトマンは(これまでとは全く違うタイプの)この映画を撮ったのか」個人的にはこれが一番気になるポイントではありますが、先ずはこの映画の魅力をお伝えします。
t03605.jpg

 物語は心を病みスーパーに行くのもやっとな母親アデル(ケイト・ウィンスレット)に献身的な態度をみせる、13歳の少年ヘンリー(ガトリン・グリフィス)の目線で語られます。週末にレイバーデイ(労働者の日)の祝日を控え、月に一度の買い物のために母とスーパーへ出かけた二人。その時に偶然出会った逃亡犯のフランク(ジョシ・ブローリン)。家に匿うことを強要されながらも、「決して傷つけない」その言葉通りに二人に接するフランクに次第とアデルとヘンリーは心を許していき、そして二人の生活には欠けていたものをフランクが埋めていくようになります。逃亡犯と出会い、彼のことを次第と知っていくうちに気持ちが徐々に傾いていく母・・・
彼女のフランクへの想いはまさに犯罪者に恋をしてしまう人質の恋愛“ストックホルム症候群”。一見この無理がありそうな設定を説得力持って演じる逃亡犯フランクことジョシュ・ブローリンに注目!
t03295RCC.jpg
(この逞しく、うまそうな二の腕を見よ!)

逃亡犯でありながらもフランクはどこか優しさのある人物として描かれ、物語は彼の過去がフラッシュバック的に挿入される形でも進行するため、なぜ逃亡犯となっているのかが次第とわかるようにもなっています。決して心から悪い人間でなかったんじゃないかと思わせるフランクはアデルたちの家に来て決定的にここに欠けているものを即座に察知します。それは父性の欠如。ちょっと手を加えれば直る傷んだ家、車・・・フランクは家を修理し、車を直し、ヘンリーにもそのやり方を教えます。男性はおろか、人との関わりを避けていたアデルにとって心のどこかでは求めていた男性的な優しさに触れ、恋に落ちるにはそう時間は必要ありません。
t02594.jpg

 そして13歳という多感な時期であるヘンリーにとっても母が抱くフランクへの想いはこの年の子が抱きがちな汚らわしいと言う感情ではなく、とても当たり前のものとして受け止めていきます。なぜなら彼にとっても男性的な優しさ、父性的なものが必要だったから。二人が心を許し、頼るようになると犯罪者として投獄されていたフランクの孤独な心にも久しぶりに温かい感情が芽生えるのです。そう、この三人が出会ったことでそれぞれがなかったもの、欲していたものを補い合ってしまうのです。

そして決定的だったのはフランクが手ほどきをして作るピーチパイ。「パイはレシピに従うのではく、本能で作るんだ」と言ってアデルの手をとりパイを作るこのシーンのなんと官能的なこと・・・物静かで手先が器用で子供にキャッチボールとかも教えちゃって、料理まで出来ちゃう、しかも演じるはジョシュ・ブローリン、犯罪者でも逃亡犯でもそんな細かいこと気にしまへん!アデルでなくともこの映画を観れば世の女性の多くはフランクと恋に落ちてしまうことでしょう・・・これを映画の説得力と言わずして何を言う。繰り返しになりますが、料理が出来て、修理も出来て、心も優しい、ジョシュ・ブローリン顔の人が突然家にやってきたら、例え犯罪者でも拒む自信があなたにはありますか?私にはありません!(キッパリ)
「レボリューショナリー・ロード」「愛を読む人」「リトル・チルドレン」と薄幸の人を演じさせたら右に出るものはいないケイト・ウィンスレットがアデルを演じたこと、ヘンリーを演じた少年ガトリン・グリフィス君の暗い眼差しがまたこの映画の説得力を高めるのでした。
t03422.jpg
(パイ作りシーンは「ゴースト/ニューヨークの幻」のろくろシーン以来の映画史に残る間接的表現における官能シーンではなかろうか!)

 ともすればオーソドックスなメロドラマとも取れる題材の本作。でも過去にとらわれ過ぎたことで人生をうまく生きることが出来ない人物として描かれるアデルとフランクはこれまでジェイソン・ライトマン監督が描いてきた主人公と時代は違えどもどこか通じる人物だったのです。あ〜だからこの映画を撮ったのかな・・・・。

 これまでのジェイソン・ライトマン作品にあった鋭い視点、ユーモアは封印されていますが、これまで同様人物をじっくり描き、レイバーデイの時期(9月1週目)独特の空気感(暑さ)が官能的なこの物語をさらに濃密にしていきます。温かい余韻に包まれて下さい・・・
By.M

© MMXIV Paramount Pictures Corporation and Frank's Pie Company LLC. All Rights Reserved.

カテゴリ

2015年9月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30