『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

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久々にこのブログへやってまいりました。できることならもう30年早く生まれてきたかった男住人Aです。伝説の映画館・アートシアター新宿文化にも行ってみたかったし、寺山修司や唐十郎、横尾忠則などのアングラな空気ももっとダイレクトに体験したかったと、妄想は尽きません。今回ご紹介するのは、そんな熱き時代・1960年代を描いた作品『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』。昨年8月に上映した『キャタピラー』以来の、若松孝二監督作品です。

若松監督が交通事故で亡くなったのは、昨年の10月17日のことでした。早く回復されて次の新作を・・・と願っていた僕は急逝のニュースを知り、愕然としました。そして数日経って少し気持ちが落ち着いた頃、「来年の一周忌には絶対監督の作品を上映しよう。やるなら監督の集大成と言える『実録・連合赤軍』しかない!」と勝手に決めました。それが10/12(土)〜18(金)の期間に行う今回の「キネマイクスピアリ〜舞浜で名画を〜」上映です。

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長野県の「あさま山荘」に5人の若者が立てこもった41年前の事件を記憶している方は大勢いらっしゃると思います。なにせテレビ中継された際の最高視聴率はほぼ90%。それほどの事件ですので、もちろん本作の前にも映画化されたことはあるのですが、しかしこの『実録・連合赤軍〜』はその過去作とはある意味、真逆の作品です。どこが真逆かと言うと、革命を志した当時の若者たちの目線で語られていく、というところ。クライマックスのあさま山荘シーンも、本作の場合カメラはずっと“山荘の中”にいて、当事者の若者たちを内側から映していくわけです。事件に至るまでの時代背景やプロセスも丁寧に描きながら、「なぜ若者たちは追い詰められていったのか」「なぜ若者たちは山荘で銃撃戦を繰り広げたのか」という、報道ではなかなか知り得ないたくさんの「なぜ」に迫っていくのです。

そしてここからは、この作品のスゴイぞポイントをいくつかご紹介。

製作も兼ねる若松監督、執念の一作
映画製作にはお金がかかるもの。若松監督は本作を撮るために自宅をも抵当に入れ、私財を投入しました。さらに劇中に出てくるあさま山荘は、なんと元々は監督の別荘だったそうです(映画を観ていただければ分かりますが、見事にぶっ壊されてますが・・・)。まさに若松監督執念の、渾身の、入魂の一作。その本気ぶりはスクリーンからもビシバシ伝わってきます。

オーディションで選ばれた若きキャスト陣
役者さんたちはほぼすべてオーディションで選抜。付き人なし、メイクも自前などなど過酷とも思われる撮影条件だったそうですが、それだけ演じる側も覚悟を持って取り組んだのでしょう。ものすごい気迫と臨場感です。ここまでの芝居をして、この後現実世界に戻ってこられるのだろうか・・・と心配になってしまうほどです。特に坂井真紀さんの演技にはもうビックリですよ。近年の若松作品を支えた井浦新さんと監督との出会いもこの作品が最初でした。当時から有名だったお二人も、もちろんオーディション組です。

劇中の役名は実名
当時の記録映像が使われるシーンもありますが、そもそもこの作品はドキュメンタリーではありません。しかし、タイトルに“実録”と冠し、主要な劇中登場人物(役名)を実名で設定したところが、本作にただならぬ緊張感をもたらしたことは間違いなく、若松監督の最大の演出とも思えます。よく似た役名を付けてフィクションを装うこともできたはずですが、それをしなかったところに監督の男気を感じます。ちなみに坂井真紀さんが演じた遠山美枝子さんは、生前若松プロで上映運動のお手伝いをしたこともある方だそうです。

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(こちら、山荘の中。右端の背を向けている少年のラストの叫びを聞いて!)

さて、この作品の中盤では、実際に山岳ベースで起こった同志粛清のシーンも出てきます。同じ目的を共有する仲間同士のはずなのに、その中からいつの間にか独裁者が育ち、他者を糾弾し、やがて内部崩壊するというのは、人間の哀しさ、またはエゴでしょうか。「総括」「自己批判」という名のものに次々と標的を生み出し、仲間を追いつめていく様は観ていて辛い場面ではありますが、これはまさしく現代にも通じる集団心理の恐ろしさを見事に表現していると僕は思うのです。公開当時の感想でもそのポイントがよく語られていて、なかには「うち会社の営業会議もあんな感じ。」という笑えないコメントもあったりして・・・。

想いにまかせて色々と書いてしまいましたが、最後に、僕にとってこの作品は一言で言うなら“青春映画”です。実際、映画に登場する若者たちは、当時は20代の方がほとんどでした。今の20代〜30代の方には、自分と同世代の物語として、ぜひ身構えずに楽しんでほしいな〜と思います。きっと映画を観た後は、お父さんと話が盛り上がりますよ。

By.A

おまけ情報

★若松孝二監督の一周忌に合わせて、当館の他にも全国で特集上映やイベントが企画されています。『実録・連合赤軍』以外にも名作は数え切れない若松監督。ぜひチェックを!
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★若松孝二監督が4年間にわたってレギュラー出演したラジオ番組「若松孝二の映画を撃て!!」が、TOKYO FMグループの衛星デジタルラジオ局・ミュージックバードでアンコール放送中!
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