インデペンデント系映画: 2014年5月アーカイブ

『チョコレートドーナツ』

|

 皆さんこんにちは、女住人Mです。今週ご紹介する映画は都内で公開がスタートするやいなや初日から全回満席の大大大ヒット!そんな映画がシネマイクスピアリでもご覧になれますよ、5/17(土)から公開中の『チョコレートドーナツ』です。
chocomain.jpg

 舞台は1979年のカルフォルニア。シンガーを夢見ながらもショーパブで女装の口パクパフォーマンスをして日銭を稼ぐゲイのルディ(アラン・カミング)。正義を信じながらもゲイであることを隠し生活している弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)、二人は出会ってすぐ惹かれあいます。そんな出会いがあった翌日、ルディはアパートで薬物中毒の母親に置き去りにされたダウン症のマルコ(アイザック・レイヴァ)とも出会います。一人部屋の片隅で母親を待つマルコを何とかしたいと思ったルディはポールに相談し、ほどなく彼の家でマルコの面倒をみるようになります。二人は深い愛情でマルコを育てようとしますが法と差別が二人の前に立ちはだかっていきます・・
chocosub1.jpg

 本作は全米の映画祭の観客賞を総ナメにしたつまり、愛され系映画と言うこともあって、ここ日本でも公開から口コミがどんどん広がっています。言ってしまえばゲイのカップルがダウン症の少年と3人で家族になろうとするお話。つまりマイノリティの人たちの人生を描く物語なので多くの人たちが劇場に足を運ぶ映画か?と言われると必ずしもそうではないかもしれません。なのに何でこんなにもこの映画は愛されるのか・・・その理由はこの映画のシンプルさ故の強さにある気がしています。

 現代はいろいろな価値観が認められるようになった一方、その差別も根強く残っているのが事実です。となると、この映画の舞台である70年代がゲイの人たちにとってどれだけ生き辛い時代だったかは想像に難くありません。主人公のルディは部屋で佇むマルコを見てすぐに自分の部屋に連れて行き、出会ったばかりの弁護士ポールに相談の電話をかけます。自分の生活もやっとなのにルディは一人ぼっちになったマルコをためらいなく自分の部屋に迎え入れます。マルコに朝食を出そうとしても、冷蔵庫にはチーズぐらいしかないのに・・・。

この映画が表現する全体の空気感はルディのこの迷いない行動で全てをあらわしています。ルディの過去について何の説明もありませんが、この行動で観客はこれまでルディがどんなに辛い思いをし、今に至るのか、それ故に何も聞かずにマルコの全てを引き受け、すぐに行動に出る・・・そんなルディの行動の裏付けとして彼のこれまでの人生を全て感じとることができます。ただ目の前にいるこの子が一人だから、その痛みがわかるルディはそこに自分を重ねたのかもしれません。もちろん損得など全く関係なくマルコを受け入れるのです。ルディの潔さ、その根幹にあるルディの苦悩、だからこそ持ちうるルディの心の美しさが感じ取れただけで私はこの映画に心を奪われました。
chocosub4.jpg
(タイトルの「チョコレートドーナツ」はマルコの大好物。)

 この後、物語は3人で幸せに過ごす日々が描かれます。どんな時代でもマイノリティである人たちの心を汲む人もいればそうでない人もいる。ポールは正義のために、世の中がもっと生きやすくなるように、転職して必死に勉強し弁護士になっています。それでもその思いが簡単に達成されることはないことも改めて知ることになります。そのままにしていたら社会から弾き飛ばされるであろうマルコを二人は必死に助けようともがきます。いつも寝る前にハッピーエンドの物語を聞かせてとねだるマルコに、彼の人生もハッピーエンドの物語で終わらせることが出来るように・・・・
そして、三人の物語はルディが歌うボブ・ディランの「I Shall be released」で幕を閉じます。全ての偏見から、差別から、それによる苦悩から、苦痛から解放される日を全ての人が手に入れられますように、そんなメッセージと共に。
chocosub2.jpg
(トニー賞受賞経験のあるルディ役のアラン・カミングが歌うこのシーンは本当に圧巻)

 偏見によって生き辛くなってしまう我らの世界ですが、それがどんなに浅はかなことであるかこの映画は教えてくます。
是非、スクリーンでご覧下さい!

By.M
© 2012 FAMLEEFILM, LLC

『プリズナーズ』

|

 皆さんこんにちは、GWも映画館に通っていた女住人Mです。
今回はGWも終わり落ち着いたところでじっくりと見応えのある作品を・・・・
と言う訳でヒュー・ジャックマン×ジェイク・ギレンホール共演の『プリズナーズ』をご紹介します。
phm.jpg

 主演は「レ・ミゼラブル」の大ヒットを受け広くその顔を知られるようになったおヒューことヒュー・ジャックマン。オバマ大統領が寿司会談をしたすきやばし次郎をこよなく愛し、親日家というか世界中でいついかなる時でもナイスガイ、彼の聖人伝説はいろいろな所で転がっている程、本当に良い人!(いえ、会ったことないですけど・笑)そんなおヒューがそういった彼自身のイメージを真っ向から覆し挑んだのが本作のケラーという役。
pha4.jpg
(いつものおヒューは始終こんな感じの子煩悩パパさん役なのですが・・・)

 家族で幸せな一日を過ごすはずだった感謝祭の日。ケラーの6歳の娘アナがひとつ年上の親友ジョイと一緒に外出したまま忽然と消えてしまいます。まもなく警察はアレックスと言う青年を容疑者として拘束するのですが、自白も物的証拠も得られぬまま彼は釈放・・・。担当刑事ロキの捜査に業を煮やしたケラーは、アレックスが漏らしたある一言から彼を犯人と確信し、自らの手で娘を助け出すために一線を越えてしまいます。ケラーはアレックスを監禁し拷問してしまうのです・・・家族思いで信仰心が厚い父親、それ故に愛娘の命の危機を経験することで常軌を逸してしまいます。一番大切なものを失う恐怖を知り、ダークサイドに堕ちてしまうおヒュー。普段のイメージ、これまでの役柄から一変しているが故に狂気が暴走する彼を見るのは本当に辛い、辛い。話が話だけに、ただでさえ胸が締め付けられる状態なのに・・・
ph7.jpg
(こんなの私が知っているおヒューじゃないよ〜)

 そしてまた容疑者となるアレックスを演じるポール・ダノの安定の演技が拍車をかけます。彼は日本では「リトル・ミス・サンシャイン」の内向的なお兄ちゃん役から知られるようになりましたが、変幻自在、そして掴みどころのない役をやらせると本当にピカイチで29歳にして既に名バイプレイヤー。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「それでも夜は明ける」といったオスカー作品にも出演し、観客の気持ちを逆なでするような役を見事に演じます。そしてたいてい劇中で最終的にボコボコにされる役が多いという・・・ご多分にもれず本作でもおヒューにボコボコにされます。しかもポール・ダノ俳優人生最大のやられっぷりです。
ppd.jpg
(「こういう役を演じるのも辛い・・・」と吐露していたダノ君に「ルビー・スパークス」みたいな役をたまにはやらせてあげてぇ〜)

「確かにこいつが怪しい。こいつは確実に何かを知っている。」と思わせるポール・ダノの風貌と演技ですが、果たしてケラーの行動を肯定してしまって良いのか?いやむしろ同じ行動を取ってしまうのではないか、と観客はますます追い込まれていきます。そして捜査は難航しつつも、ジェイク・ギレンホール扮するロキが新たな容疑者の糸口を見つけ、映画自体のミステリー性も色濃くなっていくのです。
pj1.jpg
(ロキという人間がこれまでどんな人生を辿ってきたかも自然とわかる演技をするジェイク・ギレンホールの役作りがまた良いYo!)

 こんなヘビーな内容でありながら全米ではロングランヒットをしたのですが、それは失踪事件の核心に迫っていくサスペンス的要素、脇に至るまで完璧な役者陣の演技、父親のモラルを越えた行動をどう考えるかといった感情論、そしてアカデミー賞撮影賞に11度もノミネートされながらも未冠の巨匠ロジャー・ディーキンスが撮る画など、様々な見どころがあるからでしょう。そしてこの映画の冒頭からそのメッセージは明確だったのですが、事件の真相が明るみになるにつれ、この映画の背後には“信仰心”が強く影響していることもわかります。日本人にとってそれは縁遠いものですが、こういう状況になった時に「じゃあ“信仰心”のない我々は何をもって心を保つことが出来るのか・・・」と別の疑問も沸いてくるのでした。でも私がこの宗教的な香りを物語のテーマと結び付けられたのは2度目の鑑賞の時で、そういうもの抜きにしても初見時かなり惹きつけられたので、そう言う意味でもこの映画の深さには唸るばかりです。
ps.jpg
(本作の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの過去作でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートもされた「灼熱の魂」がまたどエライ作品なので、この映画が気に入った方はこちらも是非!)

 様々な人が様々な状況で囚われる『プリズナーズ』は5/3(土)からシネマイクスピアリにて公開中です。
映画を観た後にこのタイトルがさらにジワジワきますよ。

By.M
(C)2013 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.

『とらわれて夏』

|

 GWに突入しましたね。もともとゴールデン・ウィークは映画業界の宣伝用語だったんですよね。皆さんこんにちは、女住人Mです。
今回は“私ごとですが、この監督の新作が常に楽しみでしょうがない”シリーズ、ジェイソン・ライトマン監督最新作5/1(木)公開の
『とらわれて夏』をご紹介します。
timage.jpg

 私が大好きなジェイソン・ライトマン監督は「ゴースト・バスターズ」の監督アイヴァン・ライトマンを父に持つ、現在36歳の若手監督。とは言え、長編映画監督デビュー作の「サンキュー・スモーキング」以降、「JUNO/ジュノ」、「マイレージ、マイライフ」、「ヤング≒アダルト」と現代的でユーモアのある作品を作り続け、既に2度もアカデミー賞にノミネートされている実力派。都会的な映画を得意とする彼の新作の舞台は1987年、アメリカ東部の静かな田舎町とこれまでとは全く違います。「なぜライトマンは(これまでとは全く違うタイプの)この映画を撮ったのか」個人的にはこれが一番気になるポイントではありますが、先ずはこの映画の魅力をお伝えします。
t03605.jpg

 物語は心を病みスーパーに行くのもやっとな母親アデル(ケイト・ウィンスレット)に献身的な態度をみせる、13歳の少年ヘンリー(ガトリン・グリフィス)の目線で語られます。週末にレイバーデイ(労働者の日)の祝日を控え、月に一度の買い物のために母とスーパーへ出かけた二人。その時に偶然出会った逃亡犯のフランク(ジョシ・ブローリン)。家に匿うことを強要されながらも、「決して傷つけない」その言葉通りに二人に接するフランクに次第とアデルとヘンリーは心を許していき、そして二人の生活には欠けていたものをフランクが埋めていくようになります。逃亡犯と出会い、彼のことを次第と知っていくうちに気持ちが徐々に傾いていく母・・・
彼女のフランクへの想いはまさに犯罪者に恋をしてしまう人質の恋愛“ストックホルム症候群”。一見この無理がありそうな設定を説得力持って演じる逃亡犯フランクことジョシュ・ブローリンに注目!
t03295RCC.jpg
(この逞しく、うまそうな二の腕を見よ!)

逃亡犯でありながらもフランクはどこか優しさのある人物として描かれ、物語は彼の過去がフラッシュバック的に挿入される形でも進行するため、なぜ逃亡犯となっているのかが次第とわかるようにもなっています。決して心から悪い人間でなかったんじゃないかと思わせるフランクはアデルたちの家に来て決定的にここに欠けているものを即座に察知します。それは父性の欠如。ちょっと手を加えれば直る傷んだ家、車・・・フランクは家を修理し、車を直し、ヘンリーにもそのやり方を教えます。男性はおろか、人との関わりを避けていたアデルにとって心のどこかでは求めていた男性的な優しさに触れ、恋に落ちるにはそう時間は必要ありません。
t02594.jpg

 そして13歳という多感な時期であるヘンリーにとっても母が抱くフランクへの想いはこの年の子が抱きがちな汚らわしいと言う感情ではなく、とても当たり前のものとして受け止めていきます。なぜなら彼にとっても男性的な優しさ、父性的なものが必要だったから。二人が心を許し、頼るようになると犯罪者として投獄されていたフランクの孤独な心にも久しぶりに温かい感情が芽生えるのです。そう、この三人が出会ったことでそれぞれがなかったもの、欲していたものを補い合ってしまうのです。

そして決定的だったのはフランクが手ほどきをして作るピーチパイ。「パイはレシピに従うのではく、本能で作るんだ」と言ってアデルの手をとりパイを作るこのシーンのなんと官能的なこと・・・物静かで手先が器用で子供にキャッチボールとかも教えちゃって、料理まで出来ちゃう、しかも演じるはジョシュ・ブローリン、犯罪者でも逃亡犯でもそんな細かいこと気にしまへん!アデルでなくともこの映画を観れば世の女性の多くはフランクと恋に落ちてしまうことでしょう・・・これを映画の説得力と言わずして何を言う。繰り返しになりますが、料理が出来て、修理も出来て、心も優しい、ジョシュ・ブローリン顔の人が突然家にやってきたら、例え犯罪者でも拒む自信があなたにはありますか?私にはありません!(キッパリ)
「レボリューショナリー・ロード」「愛を読む人」「リトル・チルドレン」と薄幸の人を演じさせたら右に出るものはいないケイト・ウィンスレットがアデルを演じたこと、ヘンリーを演じた少年ガトリン・グリフィス君の暗い眼差しがまたこの映画の説得力を高めるのでした。
t03422.jpg
(パイ作りシーンは「ゴースト/ニューヨークの幻」のろくろシーン以来の映画史に残る間接的表現における官能シーンではなかろうか!)

 ともすればオーソドックスなメロドラマとも取れる題材の本作。でも過去にとらわれ過ぎたことで人生をうまく生きることが出来ない人物として描かれるアデルとフランクはこれまでジェイソン・ライトマン監督が描いてきた主人公と時代は違えどもどこか通じる人物だったのです。あ〜だからこの映画を撮ったのかな・・・・。

 これまでのジェイソン・ライトマン作品にあった鋭い視点、ユーモアは封印されていますが、これまで同様人物をじっくり描き、レイバーデイの時期(9月1週目)独特の空気感(暑さ)が官能的なこの物語をさらに濃密にしていきます。温かい余韻に包まれて下さい・・・
By.M

© MMXIV Paramount Pictures Corporation and Frank's Pie Company LLC. All Rights Reserved.

カテゴリ

2015年9月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30