シネマイクスピアリ: 2012年10月アーカイブ

『終の信託』

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 すっかり秋深くなり、いろんな事をじっくり考えたくなる、そんなしっとりした季節になりましたね、こんにちは女住人Mです。
今回ご紹介する作品は10/28(日)にシネマイクスピアリでのティーチイン舞台挨拶付き上映会も決定している周防正行監督の最新作10/27(土)公開『終の信託』です。
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 タイトル『終の信託』とはまさに文字通り、自分の命の終わりを信じる誰かに託すこと。主人公の折井綾乃(草刈民代)は患者からの信頼も厚い呼吸器内科のエリート医師ですが、不倫関係にあった同僚医師・高井(浅野忠信)との関係が壊れ自殺未遂を起こしてしまいます。そんな時に重度喘息を患う江木(役所広司)から優しい言葉をかけられ綾乃は医師として立ち直るきっかけを得ます。それを機に二人は心を深く通わしていきますが、江木の病状は悪化の一途を辿っていくのです。自身の死期を察知していた江木は自分の最期を主治医である綾乃に信託することを告げます。2か月後、心肺停止状態で搬送されてきた江木に綾乃は約束通りの行動を取るのですが、それから3年後・・・綾乃は江木に対する殺人罪で検察官に追及されることとなります。
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 本作は尊厳死をモチーフに描かれた作品です。“死期”については常日頃考えていなくとも、ひょんなことで誰しも考えることですが、そういう瞬間はいつ自分に訪れるかわからないし、いつ自分の大切な人に訪れるかわかりません。本作ではそんないつ来るかわからないけど、自らに、近しい誰かに確実に来る“死期”への決断を映画を通して追体験せざるを得ず、物語上とわかっていてもとても苦しいやり取りが綴られます。そこには“尊厳死”、“終末医療”のあり方といった現実的な医療問題から人間的な感情論に至るまで様々な問いの投げかけがあります。
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 その一方、本作で江木と言う一人の男の“死期”を決めるのは主治医の綾乃、この二人の関係性が心で結びついていたと言う当事者同士には固く、ロマンチックなものでありながらも、傍から見れば理解され難いものだったために綾乃の医療行為は後に裁判へと発展し、物事をややこしくしてしまいますが、それが本作のもう一つの見所となる、検察官が綾乃を取り調べるシーンへと繋がります。
江木の死後、その医療行為を殺人罪として訴えられる綾乃を大沢たかおさん演じる検察官の塚原が執拗に取り調べます。映画前半のテーマから一転、もう、このジメっとした、息苦しさを伴う程の威圧的な取り調べシーンでそれまでの流れはガラっと変わり「あ〜、冤罪事件って、こういうことから起きてしまうんだろうな」と周防監督の前作「それでもボクはやってない」を彷彿!
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(大沢さんの演技がエグ過ぎる!!塚原は嫌いになっても、大沢たかおは嫌いにならないでね!)
いや、さらにパワーUpさせた司法に対する問題も提起し、不完全である人が不完全である人を裁くと言うことが如何に恐ろしいかを改めて痛感させられるのです。これまで一つのテーマを深く掘り下げる系だった周防作品の中で多面構造的にいろいろな気付きを与える本作は、周防映画の新たな魅力を持つ代表作になる気がします。

 そんなたくさんの事を語りたくなる本作だけに周防監督の口から直接映画についてお話が聞ける10/28(日)のティーチイン舞台挨拶付きの上映会がとっても楽しみな私なのでした。(詳しくは劇場HPのトップ画面をご参照下さいませ)

By.M
(C)2012 フジテレビジョン 東宝 アルタミラピクチャーズ

『アルゴ』

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 みなさんこんにちは女住人Mです。
今回ご紹介する作品は来年度のアカデミー賞を始め数々の映画賞を賑わすこと間違いなしの1本、10/26(金)公開『アルゴ』です。
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 舞台は1979年イラン。過激派がアメリカ大使館を襲撃し、大使館員を人質に取ります。彼らの要求は悪政の限りを尽くしアメリカに逃亡している前国王パーレビの引き渡し。そんな中、6人のアメリカ大使館員がカナダ大使の私邸に逃げ、身を隠すことに成功しますが見つかれば命はありません。そんな絶望的な状況でCIAの人質救出のエキスパート、トニー・メンデス(ベン・アフレック)が6人を国外に脱出させる為のある計画を思い立ちます。それは“アルゴ”と言う名のニセの映画を企画し、彼らをカナダ人撮影スタッフに仕立て上げ、出国させる作戦だったのです!そんなとんでも作戦に「絶対ばれる!!」と6人は反発しますが、選択肢はありません。そして、どんな手段を使っても6人を見付けだそうとする過激派たちの追手がどんどん迫って来る中、前代未聞の人質救出作戦の始まり、始まり〜!!

 と、まさにフィクションのようなお話ですが、これがなんと実話!本作はジョージ・クルーニーも製作陣に名前を連ね、監督・主演・製作をベン・アフレック(以下ベンアフ)が務めます。ベンアフと言えばマット・デイモンと共同脚本と共演もした「グッド・ウィル・ハンティング」で注目を浴び、その後「アルマゲドン」「パールハーバー」と役者として人気を博しましたが、その後ちょっと調子に乗って人気が低迷、一度干された時期もありましたが、監督、脚本家として一から出直して手掛けた作品が次々に評価され今日に至ります。そして役者でありながらも監督としての才能を開花させている彼を“次の世代のイーストウッド”と評する声も!でも個人的には「確かにしっかりした映画撮るけどさ〜たまたまじゃない?」ぐらいに思っていた訳ですが、が、が、「ベンアフ、すまんかった!!!ベンアフ、あんたほんまもんや!」と認めざるを得ない完璧な出来なんです。

 物語は爆破だったりド派手な事が起きる訳ではないのですが「どうする、次どうする」と言う展開がドンドンドンドン積み重なって進行する、まさに心理戦!出国までの限られた日数で6人全員がカナダ人になりすますためにカナダの歴史や成りきる人物の設定やもちろん映画スタッフの知識までも覚えなきゃなんです。だって、架空の人物になりすましているのがバレたら即行処刑もされかねない状況なんです。時間ない!覚えられっかー!でも時間ない!え〜い覚えろ〜死ぬぞ、殺されるぞ!で、もう見てるこっちもハラハラドキドキ。しかも刻一刻と過激派たちの追手が迫るんです。
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(「ほ、ほらこれが僕たちが撮影する「アルゴ」って言うSF映画なんだよ!(汗)」)

そんな緊迫感MAXな状況の一方で、本当にハリウッドでは「アルゴ」と言う映画を作っているテイで大物プロデューサーと特殊メイクの第一人者の二人が製作発表をしたりして、映画が進行しているフリをし続けるんですが、これをすっとボケた演技が抜群にうまいアラン・アーキン(「リトル・ミス・サンシャイン」のおじいちゃん)とジョン・グッドマンの重鎮俳優が演じていてもう最高!命がけのドラマが進行している合間に「アルゴ」と言うB級映画を撮影しているテイの吹き出したくなるドラマも進行するので映画全体のバランスがなんとも良い!
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(「アルゴ」のことはわしらに任せとけ!)

サスペンスあり、笑いあり、感動ドラマありで、もう最高に楽しめる1本です。何てったって政治的な絶体絶命の一大事を救うのが1本の“映画”だった、って何か夢がありまくりじゃないですか!もう、映画好きにはたまらないものがいっぱいてんこ盛りで、必見ですよ!!

By.M
(C)2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

『希望の国』

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 みなさん、こんにちは。女住人Mです。前回ご紹介した「アウトレイジ ビヨンド」の北野武監督同様、国内外で人気の高い映画監督と言えば園子温(その しおん)監督だと思います。
今回はそんな園監督最新作、本年度トロント国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞した10/20(土)公開『希望の国』をご紹介します。
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 舞台は架空の地・長島県大原町。人々が穏やかに暮らしていたこの地を大地震が襲い、それが引き起こした原発事故で市民の生活は一変します。原発から半径20?`圏内が警戒区域に指定され、境界線たった一つで警戒区域と非警戒区域に分断され、家を無条件に追われ避難所へ向かう者、その地に留まる者へと分かれます。本作では未曾有の災害を経験することになった人々がそれぞれの思いを抱え、それぞれの人生を生きようとする姿を描きます。
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(境界線で分けられる、あっちとこっち)

と、あらすじを読んで頂いておわかりの通り、これは福島第一原発の事故をモチーフに描かれた物語です。3.11が引き起こした日常は誰しも経験したことがなかった稀有な体験でした。普段であれば“映画”と言うエンタメも人々の心を癒したり、楽しませたり出来る存在ですが、震災直後は全くもって役立たずで、「娯楽は生きる上では必要ないんだ」と思わされました。(豊かに生きる上では必要なんですけどね)でも、時間が経過し、次第と人々が娯楽を求めるようになりました。でも、それは見たくないものを(ほんのひと時でも)見ないようにするため、そういった類の娯楽が多かったのだと思います。それはそれで必要な娯楽ではあると思うのですが、誰の心にも「このままで良いのかな」と言う気付きはあったと思います。そしてそんな中、園監督は“原発”と言う今最も日本がタブーとしている題材をモチーフに本作を作り上げました。でも園監督はメッセージ性が強いものを作りたかった訳ではない、原発のいい、悪いを問いたかった訳ではない。映画は巨大な質問状を叩きつける装置だ、と語っています。園監督は報道番組のように“情報”を記録するのではなく、被災地の“情感”、“情緒”を記録したかったと。

 本作では3組のカップルの物語を中心に原発事故が人々にどういった感情を引き起こし、それによってどういう生き方を選んでいくかを描きます。特に、大谷直子さん演じる認知症を患う妻とそんな妻を心から愛し、守り続ける夫・泰彦を演じた夏八木勲さんの口から発せられる台詞の一つ一つは胸に迫ります。本作における大谷さんと夏八木さんの演技はまさに渾身の演技で、お二人に人としての深さがあるからこそ、そして、それをこの役に昇華しているからこそ、こんなに素晴らしい演技が出来るんだと打ちのめされます。お二人の演技はそれを越え「このままで良いのか」と思っている日本人の心に必ずささります。と、同時に極限状態の中で、自分が自分であるために、そして愛する人を心から愛するが故に選択する泰彦の行動を見るにつけ、この映画は間違いなくむきだしになった人間の愛を描いた作品にも見えたのでした。
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たとえ暗闇の中にいようとも、だからこそ人は一筋の光を強く求めて生きるし、希望と言う名の光を見失わないように生きていく・・・・誰かを強く守りたいと願い、誰かを愛し続けるってなんて美しいんだろう、そう強く感じたのでした。

 By.M
© The Land of Hope Film Partners

『アウトレイジ ビヨンド』

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 スポーツの秋、芸術の秋、読書の秋、皆さんはどんな秋を満喫されますか?やっぱり秋と言えば食欲の秋、女住人Mです。
今回ご紹介する作品は海外にも熱烈なファンを持ち“世界のキタノ”と言う呼び方もすっかり定着している北野武監督の最新作、2010年に大ヒットした「アウトレイジ」の続編『アウトレイジ ビヨンド』です。
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(“世界のキタノ”だぜ、バカヤロ〜!)

 昔堅気のヤクザと今風なヤクザとの世代交代をベースに暴力の連鎖が描いた「アウトレイジ」の舞台から5年後。
関東一円を仕切る山王会の会長となった加藤(三浦友和)は若頭・石原(加瀬亮)と共に勢力を伸ばしています。政治の世界にも裏から手を出せる程のその存在に警察も業を煮やし、組織犯罪対策部a.k.a.マル暴の刑事片岡(小日向文世)は関東進出を目論む関西最大の暴力団・花菱会に目を付けます。表向きには友好関係を保っている両者を対立させ内部から壊滅を図ろうと画策していくのです。そんな時に片岡がさらに目を付けたのは獄中で死んだと噂をされていた大友(ビートたけし)。警察が仕掛ける巨大な陰謀は、関東VS関西の巨大な抗争へと発展していくのですが・・・。
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 北野監督は「アウトレイジ」を作っている時からどんどんイメージが膨らみ、続編の台本を頭に描いていたそうですが、続編を作ろうとしていた矢先に3.11の大地震が起きます。さすがに今、こういったテーマの映画を作っている場合ではないと、製作をストップ。
そんな中、世の中が自粛ムードに染まっていた震災後、北野監督の心を本作に向かわせるものがありました。それは“絆”“愛”をスローガンにかかげ連帯、団結することを謳い、でもその反面、肝心な事は全てその影に隠し、結局何も解決されない現状への苛立ちだったそうです。本作を見ると多くの日本人、いや世界の人が抱える心の闇を昇華するべく本作に向かった北野監督の思いがビシビシ伝わってくるのです。

 そして今回は関東ヤクザVS関西ヤクザの抗争も描かれ、それはもう凄い怒号の嵐でバカヤローです。前作以上に物語をきっちり伝えたかった北野監督は前作より台詞を、いや怒号をもれなく増量。しかも普段だと涙もろくて、満面の笑みがトレードマークの西田敏行さんが関西一の花菱会の若頭として登場ですし、前作から登場の三浦友和さんにしろ、加瀬亮さんにしろ、強面な世界とは真逆なイメージを持つ俳優陣が総出で怖〜いことをやってのけます。このキャスティングが「アウトレイジ」シリーズの魅力でもあります。
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(加瀬くんが〜!加瀬くんが〜!)

 この手の映画、好き嫌いはあるとは思いますが、現代人が抱える苛立ちを見事にスカっとさせるエンディングで着地させた所やフィクションだからこそ成立するバイオレンス表現でエンタテインメントとして一級品の作品を完成させた北野監督の手腕が光ります。
さすが“世界のキタノ”です。
怒号の嵐にちょっとビビリながらも、映画が終わるときっと続きが見たくなる、そんな『アウトレイジ ビヨンド』は10/6(土)より公開です。

By.M
(C)2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

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