ウラシネマイクスピアリブログ

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『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』

 今回は今年1月1日に生誕100周年を迎えた世界的ベストセラー作家J.D.サリンジャーの半生を描いた映画、1/18(金)公開『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』をご紹介します。


サリンジャーと言えば「ライ麦畑でつかまえて」の著者。思春期に若者が抱く鬱屈した感情を代弁したかのような世界観で描かれた彼の作品は多くの若者に愛読されている一方で、ジョン・レノン暗殺犯やレーガン大統領暗殺未遂犯の愛読書だった、といったセンセーショナルな一面もありました。

世界中の若者を虜にしたサリンジャーでしたが人気絶頂の中で表舞台から姿を消し、最後の作品を発表してから2010年1月27日に91歳で生涯を閉じるまで沈黙を貫いていた、という謎の多い人生を送っています。この映画では、若き日のサリンジャーの半生にフォーカスを当て、名作誕生の過程を描きます。

舞台は1939年ニューヨーク。大学中退を繰り返し、モラトリアム生活を送っていたサリンジャー(ニコラス・ホルト)は父に反発し、作家をめざしコロンビア大学に入学。文芸誌の編集長であり教授のバーネット(ケヴィン・スペイシー)の元で短編小説を書き始めるも、出版社に持ち込んでも不採用が続く日々。そんな時にやっと掲載(しかも「ニューヨーカー」誌)が決定!が、そこで起きたのが太平洋戦争でした。

 サリンジャー自身の分身とも言えるホールデンが主人公の「ライ麦畑でつかまえて」を私が手にしたのは20歳頃。彼なりの悩みはあるんだろうけど若さ故にフリーダムだな、なんてことを思いながら読んだあの頃。でもこの映画を観ると小説から感じられた奔放さといった印象よりも、サリンジャー自身が感じていたであろう“書く”ことそのものの切実さがダイレクトに伝わってきた本作。と同時に特異な才能を持つ者への神様の意地悪なのか?彼の数奇な人生について切なくなったり・・・

 若くして才能を見い出され、小説家の道を歩んだのかな、と思っていたサリンジャーでしたが、確かに22歳頃には開花しそうになるのですが、戦争勃発のためにそのチャンスは棚上げになります。もうこの段階で殺生な~というため息。入隊し、最前戦で地獄のような経験をしたサリンジャーは生還するも、戦後はPTSDに悩まされます。

でもそんな時でも彼の支えは“書く”こと。精神を病んだ彼にとってその行為自体も苦しみだったと思うのですが、何とか書くことを続けます。が、前に進もうとする時に限って謀ったようにサリンジャーは不運に見舞われます。意地悪な神様というのが本当に存在するかのように・・・

 やっと初長編「ライ麦畑でつかまえて」を完成させ、ベストセラー作家となった後も意地悪な神様は健在で、マスコミの過剰な報道や熱狂的過ぎるファンから身を隠すために人里離れた田舎町で生涯孤独の生活に身を置くようになるサリンジャーは思い描く人気作家像からは遠いなぁと感じたのは言うまでもありません。

 戦争さえなければ、意地悪な神様がもう少し優しかったら彼の人生は違ったのではないか?と思いつつも、恩師バーネットから教わった、己の“声”を物語にすることの大切さを胸に小説を書いていたサリンジャーを思うと、晩年の彼の人生も生涯をかけて内なる“声”を聞いていた、その結果なのかも・・・と思ったり。

 この映画を踏まえ、私は改めてサリンジャーの本を読みたくなりましたし、まだ彼の本と出会ってない方はきっと読書欲を書きたてられると思いますYO!
因みに私のお気に入りは「ナイン・ストーリーズ」です。

By.M