『オールド・オーク』
この時期は大作映画が目白押しですが、それだけじゃない!映画ファンの方に特にオススメしたい、いや、全大人観て!5/1(金)公開『オールド・オーク』をご紹介いたします。

舞台はイングランド北部にあるかつては炭鉱で栄えた町の唯一のパブ「オールド・オーク」。店主のTJ・バランタイン(デイヴ・ターナー)は常連客相手になんとか古びたこの店を経営していた。ある日、シリア難民を乗せたバスがこの町にやってきた。政府が受け入れ地として選んだのだ。そんな折、TJはシリア難民の女性ヤラ(エブラ・マリ)と出会い、思いがけず友情を育んでいくが、それが元で住人たちとの軋轢が生じてしまう・・・
監督はイギリスの巨匠ケン・ローチ。今年90歳になりますがデビュー当時から一貫して労働者、庶民の目線で物語を描き、弱き者たちに光を当ててきました。今回もその真っすぐな視線、そこで営む人たちへの慈愛も健在です。
みんなが集うオールド・オークは住民にとってのオアシスです。炭鉱閉鎖以降、どんどん町は寂れ、若者はこの地を出て、経済もドン詰まっているのは一目瞭然。飲まないとやってらんない彼らは昼間っからビール片手にうっぷん晴らし。その矛先が町にやってきた難民たちに向かってしまいます。

パブが息抜きの場所になっていることをTJは歓迎しているけれど、差別的発言がどんどん酷くなっていく彼らにはうんざりです。とは言え、TJにとって昔馴染の友や常連客たちは自分の生活を支えてくれている恩人でもあるし、彼らのバックグラウンドも知っている。なんの説明もなく受け入れることになった難民たちの存在に戸惑う住民の気持ちも理解できる。そんな中で出会ったのがカメラマン志望のシリア難民ヤラでした。
ヤラはずっと使われていなかったパブの奥のスペースを知らない地で孤立している仲間たち、そして苦しい生活を強いられるこの町の住民たちが一緒に集える場所として開放することを提案し、TJも考えた末それを受け入れます。パブ(PUB)はそもそも“Public House”の略称。“公共の場”、“人々が集う場所”にまさにふさわしい提案でした。TJの行動をよくは思わないパブの常連たちもいるけれど「これは慈善ではなく連帯だ」と決断するその姿には胸を打たれます。

心に傷を負った者、社会から切り捨てられた者、不安を抱える者同士が集まりご飯を一緒に食べる、そして語らう。ただそれだけのことがこんなにも希望を抱かせてくれるなんて。80年代炭鉱ストライキが行われた時代に開放されていたこのスペースが時代を経て再び“共に食べて団結する”場になっていく様もグっときます。これぞ“同じ釜の飯を食う仲”、日本にもいい言葉がありました!
ヤラとTJの交流から始まった小さな一歩はどんどん大きなうねりへと変貌していきます。でもそんな善意の光景ですら妬みの対象にすらなってしまいます。やっと希望の兆しが見えてきたのに・・・・世の中はどんどん偏狭になっていく一方だし、弱き者が自分たちよりさらに弱き者を見つけては追い詰める、叩く昨今の風潮をまざまざと見せつけます。以前は「こんな社会にしてはいけない」という気持ちで観ていたケン・ローチ作品が、今回ほど自分事の映画に思えたことはなく、またそのことに私は唖然としたのも事実です。
でも希望はその思いを持ち続けることでしか形になりません。現実も報道されるニュースも耳を疑うもの、塞ぎたくなるものが溢れていますが、それでも私たちは他者を知ろうとすること、歩み寄ること、寄り添うことを大切にしていきたいものです。絶望したら終わりです。こんな時代だからこそ、優しさと寛容さを忘れずに・・・。
そう、合言葉は「いつも心にケン・ローチ」です!
☆本作のご鑑賞には舞浜地ビール“ハーヴェスト・ムーン”もお忘れなく!
By.M
(C)Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023
