ウラシネマイクスピアリブログ

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『プリンセス・ダイアナ』、『スペンサー ダイアナの決意』

2022/10/14

 今年はダイアナ元皇太子妃没後25年ということでダイアナ元妃を題材にした作品を連続上映しています。今回はドキュメンタリー映画で描く9/30(金)公開『プリンセス・ダイアナ』、実写映画で描く10/14(金)公開『スペンサー ダイアナの決意』をご紹介いたします。

それにしても没後25年に合わせて映画が作られ公開されるなんて、ダイアナ元妃が生前と変わらず世界中から愛され続けている何よりもの証拠だなぁ、と改めて感じる訳ですが・・・

 さて『プリンセス・ダイアナ』はダイアナ元妃が1981年にチャールズ皇太子(当時)と婚約する数週間前から36歳の若さでこの世を去るまでの16年間にスポットを当てた作品で、当時のニュース映像、一般人のホームビデオといった厳選されたアーカブ素材を元にして作られました。

ある年齢以上の方なら全世界に中継されたロイヤルウェディング、そして日本訪問(1986年)でのダイアナフィーバーが記憶にある人も多いのでは?日本ですらダイアナ旋風が巻き起こった程なのでご当地イギリスは言わずもがなです。映画の冒頭からダイアナ(当時19歳!)が登場するや否や、民衆の心をガッチリ掴んだかことがとてもよくわかる映像の数々です。奇しくもその頃のイギリス経済は最悪でそれに比例するかのように英国王室の人気も低迷していたという時期でした。

華やかなロイヤルウェディングは英国市民が現実から逃避出来るうってつけのイベントになり、王室人気もV字回復。でもそれはダイアナに特化したもので、訪問先で熱狂的に熱烈歓迎されるのはダイアナで陰が薄くなっているチャールズの姿はちょっと可哀想なぐらいです。

 そんな中で当初は伏し目がちでインタビューの受け答えも一言二言だったダイアナが次第と自分の意見を言うようになり、彼女らしさを発揮し輝いていく様が映画の中で見て取れるのですが、彼女が1人の人間として自立すればする程に王室の中では浮いた存在になってしまいます。それは王室が望んでいた従来のプリンセス像ではなかったから。そして追い打ちをかけるようにチャールズの不倫問題が勃発。王室で1人孤独になった彼女を支えることが出来る存在は唯一チャールズだったのに。そんな時でもマスコミが追うのはチャールズではなく、ダイアナでした。

 そして離婚の噂が飛び交う中、エリザベス女王の私邸に王室の人々がクリスマスを祝うために集まった3日間にフォーカスし描かれたのが『スペンサー ダイアナの決意』です。

この映画はフィクションなので劇中で描かれることは創作でしかないのですが、きっとそうであったろうと共感させられるレベルでダイアナの内面が見事に描かれます。道の上の鳥の死骸、暖房が効かないお屋敷、廃墟となった生家、ジョニー・グリーンウッドが手掛ける不穏な音楽などあらゆるものがダイアナの不安定な心情や孤独な立場を代弁していきます。クリスマスを厳かに祝う王室の人々、ダイアナが着用する衣装を含め、その見た目はとても華やいでいるのに、その実あるのは凍りつくような人間関係・・・その対比は時に残酷です。

そんな状況下でも二人の息子たちの前では柔らかい表情を崩さずに深い愛情を注ぐダイアナの姿はプリンセスではなく一人の母親としてのそれで、彼女にとってどれだけ彼らが救いだったかも描かれます。

 過剰なまでにマスコミに追われ、王室では疎外感に苛まれ、愛する夫から裏切られ、それでも自分の人生を取り戻すため、いやそれ以上に自分らしく生きる姿を息子たちに見せるためかのように前に進もうとするダイアナは繊細であるけれど芯の強さを持つ女性としてとても魅力的で彼女を演じるクリステン・スチュアート(本作の演技でアカデミー賞ノミネート)は決してルックスがダイアナに似ている訳ではないのですが、その演技力でもってスクリーンの中でダイアナとして生き、観るものを惹きつけていきます。

 この2本の映画を観ることでよりダイアナ元妃の生き様と類い稀な魅力を深く知る手立てになるのですが、だからこそ彼女の人生の終焉があんな形であったことがとても悔やまれるし、一人の人間の存在をエンタメとして消費する行為があったことは忘れてはならないとも思うのでした。

By.M

(C) Michael Dwyer / Alamy Stock Photo,(C) Jeremy Sutton-Hibbert / Alamy Stock Photo