ウラシネマイクスピアリブログ

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『ウエスト・サイド・ストーリー』

 本年度アカデミー賞主要3部門(作品・監督・助演女優賞)を含む7部門ノミネートというニュースを追い風に日本でもついに初日を迎えました。今回は2/11(金)公開『ウエスト・サイド・ストーリー』をご紹介いたします。

 舞台は1950年代NYマンハッタンのウエスト・サイド。差別や偏見による社会への不満を抱えた若者たちが住むエリアでポーランド系移民グループ“ジェッツ”とプエルトリコ系移民グループ“シャークス”は互いに敵対していた。そんな中、シャークスのリーダー、ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)の妹マリア(レイチェル・ゼグラー)はジェッツの元リーダー、トニー(アンセル・エルゴート)と出会い恋に落ちる。しかしそれは多くの人々の運命を変える悲劇の始まりだった・・・。

 1957年にブロードウェイミュージカルとして誕生し、61年に映画化、神楽曲の数々にジョージ・チャキリスを始め役者たち圧巻のパフォーマンス、そしてソウル・バスが手掛けた抜群なタイトルデザインの斬新さで日本でも爆発的に大ヒットしたのが『ウエスト・サイド物語』でした。この不朽の名作をスピルバーグ監督がリメイクということで観る前から期待値が上がっちゃいます。

 都市開発(街の新しいスポット、リンカーンセンター建設)のため、瓦礫に覆われる街の風景、その冒頭シーンで一気に50年代のNYにトリップさせられる、その絵の強さからスピルバーグの本気度を感じます。ダンスシーンはオリジナル版以上にダイナミックで高揚感に溢れ、群衆シーンにおいても衣装の艶やかさも合い間って、登場人物たちの、いや映画全体の躍動感をバシバシ感じます。

スピルバーグの右腕・撮影監督ヤヌス・カミンスキーによる光と影を巧みに操ったカメラワークは若者たちの鬱屈した感情や抑えられない怒りを見事に表現、その演出にもシビレまくりなのです。とにかくどのシーンもスクリーンから溢れ出てしまう風格込みで圧倒的な映画体験なのですが、やはりなぜ今、スピルバーグがこの映画に注目したのか・・・がよぎります。

 物語は61年の映画版から大きく改変することはありません。2つの敵対するグループの対立と「ロミオとジュリエット」をモチーフに恋をしてはいけない者同士の恋愛が描かれるのですが、より明白に描かれるのは“分断”です。それはこれまでもフォーカスされていた人種間の違いから起こるものだけではありません。この映画の冒頭は前述したように再開発のために街が解体されるシーンから始まっています。“ジェッツ”も“シャーク”も自分たちの生活圏を守ろうと互いに対立しているのですが、再開発の後にここに移り住んでくるのは裕福な人々。若者たちは互いを排除しようとしていますが、この物語の先にあるのは貧富の差による分断で、結局追いやられる対象であるのは彼らたちです。

 対立はさらなる対立しか生まず、また分断も細分化されより深刻化していく、それはまさに今の我々の状況に他ならないのです。

 スピルバーグは『ウエスト・サイド物語』でアニータ役を演じアカデミー助演女優賞を受賞したリタ・モレノを大きな改変部分であるバレンティーナ役として登場させています。今回、製作総指揮としても参加している彼女に劇中におけるかけ橋的存在を担わせている点にも彼の本作に対する想いを感じざるを得ません。

 「人間はいつまでたっても同じ過ちを繰り返してばかり、むしろ悪化する一方。それでもなお乗り越えようとする感情を失くしてはいけない・・・」、スピルバーグからのメッセージを私はしかと受け止めました。

By.M