ウラシネマイクスピアリブログ

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『私をくいとめて』

 今回は今年の東京国際映画祭で観客賞を受賞した1本、12/18(金)公開『私をくいとめて』をご紹介いたします。

 主人公は黒田みつ子(のん)31歳。会社勤めをしながらプライベートではお一人様ライフを満喫する彼女。一人でも楽しく生きるみつ子の頼れる味方は脳内に存在している相談役=A。困ったことが起きても悩みはいつもAに問いかける。そんな彼女にある日訪れた久しぶりの恋!それは取引先の年下営業マン多田くん(林遣都)。二人の関係は良い感じな気もするけれど勇気が出せないみつ子のロマンスが走り出します!

妄想と現実の狭間で揺れる乙女心を描かせたら!な大九監督×原作・綿谷りさ(『勝手にふるえてろ』)コンビが再びタッグを組み、これにのんさんが加わると聞いただけでその相性の良さが伺えて期待が高まる本作。

 脳内に存在する(声だけの)Aと会話しながら日々を暮らすみつ子は休みの日にはやりたいことを1つずつ制覇して楽しんだりとお一人様を謳歌している日々。どこか先を見据え始めた頃とでも言いましょうか、世間的に凄くもてはやされる若さがある訳でもなく、かと言っておばさん認定される訳でもない(このものさし自体はどうかと思いますが・・・)でも30歳というある意味節目の年は越えた31歳という年齢設定は絶妙に効いている気がします。

 私もみつ子ぐらいの年には(いえ、若い頃から結構な期間)軽く1人脳内に住まわせていた経験があるので、Aと共に生活しているみつ子には親近感しかなかったですが、そう言う人多いですよね?(あれ違う?w)お一人様ライフは一人だから出来ることも増えるし、苦にならない人にとっては本当パラダイスですが、世間の目みたいなものもあるのでどこか「私、望んで一人でいますし、楽しいです」みたいなわかりやすい若干のポージングも必要かもしれません。歳を重ねるともっと楽チンになれると思うのですがみつ子はまだそこまでの域には達していないので、結構ブレることも暫し。

そんな時に多田くんと出会ってしまったものだから、ちょっと不安定さに加速が加わります。傍から見てると「えー、大丈夫だよ。」という二人の関係も当事者だと臆病になり過ぎてしまって、そんなやり取りがとてもリアル!それを演じるのんさんの演技はパワーの塊でとにかく心が掴まれます。普段はほんわかですが時に感情を爆発させる、その熱量の持って行き方が凄くいい!

 そしてイタリアに嫁いだみつ子の親友の皐月を橋本愛さんが演じ、飛行機嫌いなみつ子が満を持して皐月を訪ねるシーンも。「あまちゃん」再びな共演に妙にドキドキしちゃうのですが、なかなか会えなかった親友との邂逅はどこか現実世界とも重なって別の意味も加わったとても素敵な場面になっていますのでそちらも注目です。

 恋愛を通して自分と向き合うことになったみつ子はどうしてもAの力なしでは前に進めないのですが、A自身、そもそもみつ子が作りだした自意識のカケラ。そんなAと向き合い、次なる階段を昇ろうと試みるみつ子に自分を重ね、応援しちゃう人も多いんじゃないでしょうか?

 また随所でジェンダーに纏わる生き辛さも描いているところもあり。世間において役回りを演じさせられる、というのがこれの根幹にあるんじゃないか?と個人的に思っている今日この頃。劇中の温泉宿での漫才ショーのシーンはこの“役まわり”問題に正面から向き合ってもいます。そこでののんさんの演技がまた素晴らしく、可愛い上に圧倒的ってどういうことーー!と脳内で私はのけぞってしまいました。

 本作ではシネマイクスピアリが一方的に応援し続けている片桐はいりさんもみつ子の憧れる上司として登場。いつものはいりさんっぽくない役ですが出来る上司あるあるを体現していて役者・片桐はいりさんの別の一面を垣間見れますYO!

 劇中のイタリアでのパートは撮影がコロナ禍にかかってしまったそうで、その状況をも落とし込んだ作品としても、まさに今の映画だな、と思ったり。今年は何だかな、な1年となってしまい、帰省や遠くにお出かけも憚れる年末年始、お一人さま生活になる方には特にオススメです!

By.M