ウラシネマイクスピアリブログ

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『スキャンダル』

 今回ご紹介する作品もオスカー関連の作品です。本年度アカデミー賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン)・助演女優賞(マーゴット・ロビー)ノミネート、メイクアップ&ヘアスタイリング賞(カズ・ヒロ)受賞、2/21(金)公開の『スキャンダル』です。

 2016年、全米視聴率No.1を誇るFOXニュースに激震が!人気キャスターだったグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)がCEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクハラで訴えたのです。人気番組から降格させられ、クビを言い渡されたのは彼に強要された性的関係を拒絶したから、と。

グレッチェンが訴訟を起こしたことで現・売れっ子キャスター、メーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は過去の出来事を思い返し複雑な心境に・・・一方、野心家な新人キャスター、ケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)はまさにグレッチェンの後釜としてチャンスを得たいと思っていたのでした。

 たった4年前に起きた事件を題材に実名で描く本作。ワインスタインのセクハラ問題が明るみになったハリウッドにおいて、きっと対岸の火事ではなかったハズ。ハリウッド映画で堂々と主演を張る3人の役者たちがこの映画に集結しましたが、彼女たちも覚悟と強い信念でもって挑んだに違いない、というのがヒシヒシと伝わる演技にとにかく痺れます。

 物語は朝のニュースの顔として活躍していたグレッチェンが上司の告訴に踏み切ったことで動き始めます。業界でも最も力のある男への逆襲は彼女自身が完膚無きまでに追いつめられることを意味します。が、グレッチェンは決して泣き寝入りはしません。それでも彼女が1人、「NO」と声をあげるのは相当な事だったろうというのは想像に難くはありません。

グレッチェンには強い意思と芯の強さがあったかもしれませんが、彼女の唯一の希望は自分の行動により、一緒に立ちあがってくれる声があるハズ、という事でした。それは被害者が自分だけではない、という絶望も同時に意味するのですが・・・そして彼女の勇気ある行動の後ですぐ事が動いたか、と言われるとそういう訳ではなく、声をあげたくてもあげられない各々の理由、状況、心情もリアルに描かれ、告発することの難しさを観客も感じることになります。

グレッチェンの告発で人知れず動揺するのがシャーリーズ・セロン演じるメーガンでした。それは自身もロジャーの被害者の1人だったから・・・。キャスターとして成功を手にしていても、彼女自身は人間性の前に女性であることで攻撃される日々。塞いだ過去も目を背けただけだから何の解決もしていなかったことも思い知らされるのです。

 そしてグレッチェン解雇の後、千載一遇とCEOロジャーに果敢に自己アピールをしたケイラはまさに彼の恰好の餌食になってしまうのでした。成功を夢見て、チャンスを自分のものにしたい!とアピールしたのに、それを逆手にとられ弱みに付け込まれてしまう。悪は圧倒的に立場を利用してセクハラを強要した方なのに、自分にも隙があったのでは?自分が悪かったのではないか?と自分を責めるケイラ。

よくこういう状況で拒否出来なかったことを「容認」と取る声を聞きますが、拒否出来ない状況に追い込むことそのものが既に人を貶める行為に思えるし、自分の立場を利用して、ってどんだけ卑劣で本当に胸糞が悪いなぁ、と。ここでは女性に対するセクハラが描かれていますが、権力がある者の下で誰だってパワハラ、セクハラを受ける可能性はあるし、男性だって全然他人事の話ではないのです。

 踏みにじられた自身の尊厳の回復だけでなく、これを今ここで止めなければならない、という思いの元、闘う女性たちの姿はとても力強い半面、闘いはまだ続いているという現実も描かれるところがこの映画の誠実さの表れでもあり、やるせない思いにもさせられるのでした。


By.M