ウラシネマイクスピアリブログ

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『1917 命をかけた伝令』

 今回はアカデミー賞作品賞を惜しくも逃しましたが撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門受賞した2/14(金)公開『1917 命をかけた伝令』をご紹介いたします。

1917年、フランス。第一次世界大戦がはじまって3年が経過。ドイツ軍と連合軍とのこう着状態が続いている中、イギリス人兵士スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)はある重大な任務を受けます。

それは撤退したドイツ軍を追撃中の前戦部隊に作戦中止のメッセージを届けること。このままだとドイツ軍の罠により1600人の友軍が一網打尽に・・・目指す部隊に実の兄が所属しているブレイクは一刻の猶予もないまま、スコフィールドと共に作戦中止の伝令を届けるべく最前線に向かうのです。

本作は監督のサム・メンデス(「007 スペクター」「レボリューショナリー・ロード」「アメリカン・ビューティー」ほか)が子供の頃、第一次世界大戦を経験した祖父から聞いた話を元に作り上げたフィクションです。“全編ワンカット”でずっと繋がっているようにみせた演出なので、アカデミー賞撮影賞ほか3部門の受賞は納得です。

でもこの“全編ワンカット”にみえるテクニックにばかり気持ちが持って行かれすぎると、却ってこの映画の良さが半減する気もするので、映画を観ている間はただスクリーンの映像に身をゆだねる、ぐらいのスタンスがいいかもしれません。でも「どうやって撮ったの?」というのがどうしても気になってしまうとは思いますが・笑。

カメラを一度も止めず、あたかもずっと長回しにしているよう思える分、役者たちの演技のタイミングだったり、カメラマン自身の動きだったり、映ってはいけない人が映るんじゃないか?といった現実的なヒヤヒヤ感、そして物語としては主人公たちが途中どこから命を狙われるかわからないし、敵と出くわすかもしれない、伝令を時間までに届けないと多くの命に犠牲が!という何が起きてもおかしくない状況がずっと描かれるので、緊張の糸はピンと張りつめたまま。

本編は2時間程度の尺ですが、手持ちカメラが主人公たちを追い続ける様に観客も途切れない物語の中で彼らと共に疲労感を味わうこととなります。

こういった技巧的なことが優れていることはもちろんですが、フレッシュなキャストたちの演技がこの映画を支えていることも忘れてはいけません。まだ知名度が然程高くない二人を主人公に起用したことで彼らがどんな目に遭うのか先が読めないし、その確かな演技力にグイグイ引き込まれます。特にスコフィールドを演じたジョージ・マッケイくんは個人的にも注目しているイギリスの若手俳優。今後もきっと活躍の場が増えると思うのでチェケラ~です!

「さすがシェイクスピアの国、演技派俳優がわんさかいるな~」という色眼鏡で見てしまっているところもありつつですが、本作では英国を代表する3人の俳優がワンポイント的に登場!この役者使いのうまいこと、うまいこと・・・。若手メイン二人もあと数年後にあの3人みたいに個性を活かした役者になるのかしら~という将来まで妄想して胸は熱くなるのでした。

と、役者たちに関しては希望を見い出せるもの、この映画で感じることは“虚しさ”、それ一点です。前戦に向かう途中、目にするのは屍、屍、屍、それに群がるネズミ。死体の山をかき分けその上を歩き、命からがらやり過ごせたとしても死んだ兵士たちはすぐ側で無残に置き去りになったまま。様々な試練を経験する主人公たちですが、このミッションがコンプリート出来る、出来ないに関わらず、多くの兵士の命は奪われ、この戦いもすぐに終わる訳ではありません。

自分が命を落としたとしても、また別の命がコマのように変わりになるだけ。戦争が長引けば長引くほどただ消費されるだけの命。戦争の不毛さだけがダイレクトに伝わり,やりきれない感情だけが残るのです。でもこの「何のために・・・・」という感情から目を反らしてはいけない、そのために戦争映画はある気がしています。

By.M