ウラシネマイクスピアリブログ

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『ホテル・ムンバイ』

 やっと秋めいて参りました。これからの時期は映画もじっくり考えたり、重厚なものを観たくなりますよね。今回は骨太・社会派な作品、インドの五つ星ホテルで実際に起きた無差別テロを題材にした9/27(金)公開『ホテル・ムンバイ』をご紹介いたします。

2008年、インド・ムンバイでイスラム武装勢力による同時多発テロが発生。この街の象徴でもあるタージマハル・パレス・ホテルはテロリストに占拠されるも、多くの従業員が宿泊客を救うためホテルに残ります。その一人が給仕アルジュン(デヴ・パテル)。臨月の妻と幼い娘と暮らす彼は無事に家族の元に戻るため、そして一人でも多くの宿泊客の命を救うため、この惨事に立ち向かいます。

 この映画、冒頭から一気にその世界観に飲み込まれます。街で暮らす人、旅行者、様々な人種の多くの人々が日常を過ごしている風景に容赦なく銃音が鳴り響き、一気に緊張感に溢れ、観客までも襲撃事件の真っただ中に放り込まれます。駅の襲撃から始まった無差別テロは、ここなら安全とタージマハル・ホテルに救いを求め逃げ込んだ人にまで襲いかかり・・・。なぜならその中にテロリストたちが紛れ込んでいたのです。

 若いテロリストたちが自分たちの信じる正義のために無表情のまま宿泊客、従業員に向け、次々にライフルを向ける様は言葉を失います。従業員を銃で脅し、宿泊客をおびき寄せるといったあらゆる手段を使って命を奪おうとする。そんな状況の中で従業員たちは隙を狙えば逃げることも出来るのに「自分たちだけが先に逃げる訳にはいかない」と宿泊客がどうにか生き長らえ、脱出出来るようにと献身的に守ろうとします。

 この絶望的な状況に置かれ、料理長はスタッフを集め「責めはしない、この場からすぐに逃げたいものは逃げてもいい」と促します。「申し訳ない」という気持ちを抱え、避難する者もいます。それでも残った者に対して料理長は再び諭すのです。「今、この場を去ってもそれは決して恥ずべきことではない。家に帰りたい者は帰っていいんだ」と。こんな時でもなお、ここまで人を慮ることが出来るなんて・・・、とその心の強さに感動を覚えます。

 また、生まれて間もない娘とシッターを伴った夫婦デヴィッドとザーラもVIPルームの宿泊者としてこの事件に遭遇。デヴィッドを演じるのは『君の名前で僕を呼んで』で注目を浴びたイケメンにして実際富豪のアミハマさんことアーミー・ハマー。これまでも何度か紹介してきましたが、生まれた持った品の良さ、嫌味のない金持ちオーラに包まれたアミハマさんはこういう役が本当にハマる。一組の夫婦に物語がフォーカスされることでより緊迫感も増していきます。

 日本に住んでいるとこの映画ほどの事件に遭遇はしませんが、例えば災害で危険な状況下に身を置くというのは考えられる訳で、そんな時に自分が見ず知らずの人のために行動出来るのか、と問われると従業員たちがとった行動がどれだけの事だったか想像に難くありません。

 映画における「ここは俺に任せて、お前たちは先に行けーー」というシーンは個人的に大好物なのですがそれを選択出来る勇気を持ち、実際に行動に起こすことは並大抵の事ではありません。こういう作品を観るにつけ、万が一の時は「ここは俺に任せて・・・」と言える人に自分はなれるのか・・・いつも考えてしまうのでした。そして、世界は人種、民族、宗教などの違いで分断されがちな状況になっていますが、そんな隔りを越えて、人を思いやる気持ちがどんどん大切になってきているな、と改めて思うのです。

By.M