ウラシネマイクスピアリブログ

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『蜜蜂と遠雷』

 まだ暑さを感じる日は多いですが夜の風はすっかり涼しくなりました。秋の到来を感じるこの季節にピッタリの作品、今回は10/4(金)公開『蜜蜂と遠雷』をご紹介いたします。

 若手ピアニストの登竜門として注目される芳ヶ江国際ピアノコンクール。かつて天才少女と呼ばれながらも表舞台から消えていた栄伝亜夜(松岡茉優)は再起をかけこのコンクールに挑みます。そこで出会い共に競い合う3人のピアニスト。果たして優勝するのは誰なのか・・・。

 本作は史上初直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸さんの同名小説の映画化です。恩田さんは絶対に小説でなければできないことをやろうと決心して書き始めたそうで、故に映像化を知った時はなんて無謀な、と感じていたそうです。

確かに読み手の想像の中で膨らんでいる登場人物像や頭の中で鳴っている音楽を映像として表現する、というのはとてもチャレンジングなことです。原作ファンの方は思い描いた物語や音楽がどんな風に具体化されたのかを楽しめるでしょうし、原作を読んでいない方は純粋に音楽そのものと4人のピアニストたちの心の有り様を堪能できる映画になっていると思います。

 この映画が纏う空気感がとてもいいなぁ、と感じたのはそれぞれ魅力的な4人のピアニストたちの人物像とその関係性でした。ピアノコンクールなので、もちろん誰が優勝するのか、という勝敗の行方が物語を動かすという側面はあるのですが、4人は各々がとても個性的だし、誰もが音楽そのものを愛しているし、それぞれ抱えているものがある。ある者は喪失感が埋められずここまで来ていたり、ある者は自分の限界を感じていたり・・・。

そして4人ともが類まれなる才能を持っているだけに、それぞれの音楽を聴いただけでそれを察知してしまうのですが、そこで足の引っ張り合いが始まるのではなく、同じ“音楽”を愛してやまない者同士が心のどこかで支え合う存在になり、時に相談にのったり、助言をしたり、互いを優しく労わり、高め合う存在でいるのです。そのため「果たして優勝の栄光は誰の元に!」という感じよりも誰が負けても、誰が勝っても残念な気持ちが残る、全員頑張ってーー、全員負けないでーーー、という気持ちになっていくのです。

 しかも4人を演じる役者陣が役にぴったり。元天才少女には松岡茉優、妻子持ちのサラリーマンピアニストには松坂桃季という先ずは説明不問の二人が中心にいて、「レディ・プレイヤー1」でスピルバーグに見出された森崎ウィンが「ジュリアード王子」の愛称にふさわしい華のあるピアニストを、そして正規の音楽教育を受けていないにも関わらず天才的ピアニストに見出され頭角を現す少年を新人の鈴鹿央士が演じます。フレッシュな顔ぶれと若手演技派俳優たちのバランスがとてもうまく調和していて、その演技も心地良いハーモニーを生み出しているかのようです。

点数をつけたり、優劣をつけることがとても困難なジャンルだからこそ、そして音楽そのものを心から愛しているからこそ、ストイックにそれに向かい合う4人の姿は美しく、時に残酷で、でもその先には言葉では表現出来ない、彼らが奏でる音楽にこそ答えが見出されるようなゴールが待っています。

 そして本作には先日シネマイクスピアリで4度目のご登壇&もぎり嬢としてご来館いただいた片桐はいりさんもコンクール会場のクローク係としてご出演されています。ピンと張りつめたシチュエーションで挿入されるはいりさんのシーンは小休止的と申しましょうか、とても良いアクセントになっています。映画の本編前には片桐はいりさん主演ショートムービー『もぎりさん』の第4話『つなぐもぎりさん』も10/4~11の間でご覧いただけますので、合わせてお楽しみ下さい♪

By.M