ウラシネマイクスピアリブログ

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『シェイプ・オブ・ウォーター』

 皆さんこんにちは、アカデミー賞受賞式を見ると、自分だったらどんなスピーチをするだろう、と不毛な妄想をしてしまう女住人Mです。今回は本年度アカデミー賞で見事作品、監督賞を含む最多4部門受賞となりました『シェイプ・オブ・ウォーター』(3/1公開)をご紹介します。

 舞台は1962年アメリカ。政府の極秘研究所に勤めるイライザ(サリー・ホーキンス)は秘かに運び込まれた不思議な生き物に出会います。どこか魅力的な姿に心奪われた彼女は周囲の目を盗んで“彼”に会いに行くようになります。小さい頃から声が出せないイライザですが“彼”との間には言葉は必要ありません。しかし、“彼”は間もなく実験の犠牲になることを知ります。

 不思議な生き物と孤独な女性の恋の物語、それは大人のおとぎ話。監督はメキシコが生んだ鬼才ギレルモ・デル・トロ。『パシフィック・リム』や『パンズ・ラビリンス』の監督としても知られ、特にダークファンタジーを描かせたらピカ1!誰も真似出来ないオリジナリティ溢れるデル・トロ・ワールドを作りだすことでも有名です。自身をヲタクと呼ぶほどに怪獣、アニメと日本文化が大好き、朗らかで大きな彼は『パシフィック・リム』撮影時に芦田愛菜ちゃんに「デル・トトロだよ」と話しかけていたほど。なんて無邪気で良い人なんだ。そんなデル・トロが描く本作を観終わっての私の第一声は「デル・トロ、なんてロマンチック!!」なのでした。

 そもそもこの映画、デル・トロが小さい頃に見た映画で半魚人が女性に恋をするも、半魚人が殺されてしまうラストが悲しくて、これがハッピーエンドになるような物語を当時からずっと考えていたことがモチーフになっているそうです。見た目だけで人を判断してしまう悲しみ、じゃあ一体全体本当の美しさって何?人を愛することとは、といったことを子供の頃から考え、感じとっていたデル・トロが紡ぐ物語は純真で一途な想いそのものです。

1960年当時、イライザのように障害を持つ女性は差別を受けながらひっそり隠れて生きる存在です。そんな彼女そのものを愛してくれたのが“彼”であり、“彼”を通して彼女は愛を知ります。そして愛し愛される二人に障害が立ちふさがった時、イライザが取る行為は“彼”を全力で守る、その一点なのです。自身の身に危険が及ぼうとも、愛した人が異種な存在という理由だけで差別され、それを守れないのなら、自分も差別する側となんら変わりはない。愛を知ったイライザは愛でもって強くなっていく。愛に溢れた女性の心理をこんなにまで真っ直ぐに描くことが出来るデル・トロ、本当に素敵すぎます!

 そしてイライザを助けるのは隣の部屋に住むゲイで売れない画家のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)、黒人女性で同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)とマイノリティな人々。彼らもこれまでの人生で幾度となく差別を受けているからこそ、彼女のために何とかしてあげたい、という気持ちでイライザに寄り添います。時代は50年以上前の設定ですが、不寛容な空気が人を生き辛くしていることに関しては現代のそれを同じで、まさに今を描いていることもこの映画が多くの観客の心を惹きつけている1つの要因かもしれません。

 また本作は社会の片隅でひっそりと生きるしかなかった人々が“愛”のために踏み出していく物語であると同時に組織の中でマッチョイズムを強いられ、どんどん壊れていくエリート軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)の姿も描かれます。彼は映画の中で絶対悪としての存在ではあるのですが、男社会において男たるもの、という固定概念に囚われ自分で自分を追い詰め、崩壊していく姿はとても哀れにも感じられます。“彼”をモンスターとして描いていた本作において、最終的に誰がモンスターになったのか・・・

 『シェイプ・オブ・ウォーター』、それは様々に変化する水のように、誰かを想う気持ちもいろいろな形があって良いですよね。

☆ギレルモ・デル・トロ監督、来日記者会見の模様もちょっぴりお届け!☆
 
 自身でも一部製作費を捻出し、プロモーションのために1年間休業宣言をした程、本作に愛情を注ぐデル・トロ監督は1月に来日してその想いをたっぷり語ってくださいました。

「The Other(他の者)を信用するな、恐れろと言われるこの時代にぴったりの作品になりました。愛や感情がなかなか感じられない困難な時代だからこそ寓話として語れば、皆が観てくれると思いました。

今日も映画(業界)が衰退していますが、1960年台もTVが出てきて映画が衰退した時期でした。そういうような時代に僕の映画に対する愛を込めて描きました。」とデル・トロ監督。

キャスティングに関しては・・・
「イライザはサリー(・ホーキンス)をイメージして書いたアテ書きでした。彼女を「サブマリン」という作品で知りました。劇中、セリフは少ない役だったのですが、人の言葉を聴く、見ると言う姿がとても素晴らしかった。いい役者というのはうまくセリフを言える人と思いがちですが、間違った概念だと思います。一番優秀な役者というのはよく聞き、よく見る人だと思うんです。

そして、キャスティングは目で決まります。オクタビア(・スペンサー)の目も、サリー(・ホーキンス)もマイケル(・シャノン)の目も違う音楽を奏でていると思います。

不思議なクリーチャーを演じたダグ(・ジョーンス)は世界でも稀な役者です。日本には文楽という芸術があり、そこそこの人はうまく人形を操りますが、最高の人形遣いは完全に人形になってしまいます。そのようにダグはあのスーツを着たら完全にキャラクターになってしまう特技があります。どんなにカメラワークがよくてもVFXがあっても、もしダグが本当にあのクリーチャーに見えなかったら、またサリーが本当に彼のことを愛をこめて見なければこの映画は成立しませんでした。」と監督。

「2回目のオスカーのノミネーションになるけれど、どちらも私が自分らしさ、自分を表現した作品が評価されてとても嬉しい。」と語っていた監督ですが、作品賞・監督賞ほか4部門も受賞し、その喜びもひとしおだったのでは?
記者会見には『パシフィク・リム』に出演した菊地凛子さんが花束をもってご登壇。
「本当に美しい映画でした。真実の愛、深い愛とは何かを見せてもらいました」と絶賛!

最後に「メキシコの兄弟を助けると思って、映画を是非観てください!」とコメントした監督。フォトセッションでは日本に来て美味しいものばかり食べてるから、ジャケットのボタンが止まらなくなったんだよ、と記者を笑わせたり、合間で歌を歌ってくれたりとデル・トロ監督の人間味が伝わる温かい記者会見でした。
(2018.1.30)
By.M