ウラシネマイクスピアリブログ

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『15時17分、パリ行き』

 87歳にして変わらず意欲的に映画を作り続けるイーストウッド監督。またもや傑作を作ってしまいました。今回ご紹介する作品は3/1(木)公開『15時17分、パリ行き』です。

 物語のベースは2015年に実際に起きた無差別テロ襲撃事件。554名が乗るアムステルダム発パリ行き15時17分の特急列車に武装したイスラム過激派の男が乗り込みます。そのテロを未然に防いだのが、たまたま居合わせた3人の若者たちでした。イーストウッドが新作に選んだ題材、今度は“テロ”!

 ここ最近は実在する人物や事件をモチーフに映画を撮り続けているイーストウッド。つまりその事実やどうなったかが既に知られていることにはなりますが、そこは熟練の巨匠イーストウッド、「そういう風に描くのか!」と我らの予想を斜めいく作品に仕上げていて、いつも度肝を抜かれます。

本作ではテロを防いだアンソニー、アレク、スペンサーという3人の若者が主人公なのですがなんとその当事者たちが本人役で登場。つまり、素人さんが主演なんです。しかも当時列車に乗っていた乗客もかなり出演しているらしく、そんな発想で映画を撮ろうと考える、その姿勢が先ずおったまげ。毎回年齢を言うのも申し訳ないですが87歳になってもなお、ここまで攻めた映画を作るというだけで天晴れです。しかもイーストウッドの手にかかれば、素人さんを使った映画も一級品として完成しているのでもう何とも言えません。イーストウッド、映画の神様に愛されすぎてる!

 そして前述したように「この題材でこういう風に描くのか!」という驚きに関して言えば、例えば前作『ハドソン川の奇跡』ではエンジン停止となった飛行機をハドソン川に着水させるまでのハラハラドキドキを描くのかと思いきや、トム・ハンクス扮する機長の判断が正しかったのか?という事件のその後の方に赴きが置かれた内容でした。本作でも犯人がどのようにしてテロを考え、どのように実行し、そして若者たちはどうやってテロを食い止めたのか、というのをじっくりと描く・・・と思うじゃないですか。それがそうじゃないんです。もうこの描かれ方が本当、ぶったまげです。

 実は3人は幼馴染でそのうち2人は軍歴があります。彼らの人となりは幼い頃から生い立ちを含め丁寧に描かれます。なぜ幼馴染だった彼らが大人になるまでずっと仲良しでいたのか、なぜ2人が軍に入隊したのか、そして大人になりヨーロッパ旅行に行くことになった経緯、そしてその旅行中の出来事もかなりの尺を使って淡々と描かれていきます。そう、素人さんの旅行中の風景を我らは映画として観るんです。ちょっと不思議な気分です。でも、映画が終わった時になぜそんな日常風景が描かれることが必要だったかが、じんわりわかってくるんですよね。

それはなぜテロと食い止めたのがこの3人だったか、ということにも繋がってはいくのですが、その理由は『ハドソン川の奇跡』ともちょっと通ずるものがあります。あの事故での機長の行動はまさに“奇跡”のような捉え方もされましたが、映画の中ではただ自分が出来ることをしたまで、という当事者にとってはとても当たり前の行動として描かれます。自分が選ばれた人間だったからではなく、あういう場にいればそれをしないという選択はなかった、という感じ・・・それを第三者から見ると“奇跡”だったり、“神業”みたいに思うのかもしれないのですが・・・。

そういった意味で、イーストウッドは「凄いことをやってのけてしまうのが人間。それには理由がある訳ではなく、ただその行為そのものがあるだけさ。」とでも言っているかのように思えたのです。とは言え、こんな偉業を成し得ることが出来るのは選ばれた人、まさに運命に導かれた人、と凡人の私からしてみれば思えるのですが・・・。いや~、とにもかくにもイーストウッド、一筋縄ではいきません!

そして本作の公開に併せて“イーストウッドが描く実話をベースにした珠玉の映画”として、2014年の監督作『ジャージー・ボーイズ』を3/5(月)~3/9(金)で期間限定上映をします。音楽通でも知られるイーストウッドが人気ブロードウェイミュージカルを映画化。日本では全米以上に熱狂的なファンを獲得した名作です。「君の瞳に恋してる」など日本人にも馴染みある曲の数々、是非この機会に合わせてお楽しみ下さい。



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