ウラシネマイクスピアリブログ

映画を愛するシネマイクスピアリの宣伝担当者が
今後の上映作品を
ウラからナナメから眺めてそっと語るオフィシャルブログ

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』

 第90回アカデミー賞が開催され『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品、監督賞を含む最多4部門受賞となりました。この映画で主演女優賞にノミネートされ惜しくも受賞は逃しましたが、主人公イザベルを演じたサリー・ホーキンスは今、最も旬な女優さんと言って過言ではありません。今回はサリー・ホーキンスが実在した画家を演じた3/3(土)公開『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』をご紹介します。(因みに本作はカナダ・スクリーン・アワード(カナダ・アカデミー賞))で作品賞、監督賞、最優秀主演女優賞、最優秀助演男優賞ほか7部門を受賞!!)

 カナダの田舎町でひっそりと暮らすモード(サリー・ホーキンス)。幼い頃に若年性関節リュウマチを患い、手足が不自由な彼女の心の支えは絵を描くこと。両親を相次いで亡くしたことで叔母の家に引き取られるも折り合いが悪く、家を出て自由な暮しをすることを夢見ていました。そんな時に魚の行商を営むエベレット(イーサン・ホーク)の家で住み込みの家政婦になり、やがて二人は夫婦に・・・。そしてエベレットが魚の行商をしている際にモードが描いたポストカードを一緒に売っていたところ、彼女の絵はどんどん評判を呼ぶようになります・・・。

 知られざる画家モード・ルイスの半生を綴る感動的な実話であると同時に夫エベレットとの夫婦の絆を描いた本作。モードは障害を抱えてはいるもの、自立心旺盛で絵を描いたりピアノを弾いたりと自分が好きなことを自由にすることを何よりもの喜びと感じている女性。彼女は家を飛び出しエベレットの家で家政婦を始めるのですが、ぶっきらぼうなエベレットとは全く噛み合わず、うまくいきません。彼はコミュニケーションを取ることが苦手なので、モードに優しく接する手段を知らず、怒ってばかり。でもモードは叔母の元には決して戻りたくない、自分がいられる場所はここだけしかない、という思いが強いので、自分の思いはきちんとエベレットに伝えることで、二人の関係はいつしかモード主導で動き始めます。

繊細だけど、芯は強い、泣き虫だけど、ちょっとしたことではへこたれない、そんな複雑な役をサリー・ホーキンスは見事に演じています。本編中にモードが描いた絵のいくつかは実際サリーが描いたものらしく、撮影前に絵画教室に数ヶ月通ったことと、実は両親が絵本作家で彼女自身学生時代に美術と演劇、どちらの道に進むか悩んだこともある、というエピソードは役が彼女を呼んだようですね。

 そしてちょっと癖のあるダメ男を演じさせたらこの人、イーサンが今回も素晴らしい!イーサンはこれまでも神経質な文化系ダメ男は数々演じてきましたが、今回は魚の行商をしているちょっとガテン系ダメ男。役作りの成果か、いつもよりガッチリとした体型になったイーサン。モードを家政婦として迎えるや否や「この家で一番は俺。犬がいて、鶏がいて、お前が最後!」みたいな発言をするどうしようもない男。家政婦として雇ったとは言え、体が不自由なモードに優しい言葉をかける訳でもなく、ぞんざいに「あれしろ、これしろ」と命令ばかりなのです。

でもエベレットは孤児院育ち、人とは距離を置いて大人になっているのでモードとの心の距離も掴めない。「俺だってどうしてよいかわからないよ・・」という心の声が聞こえてきそうなのはやっぱり彼をイーサンが演じているからだと思うのです。あの寂しい憂いのある眼差しを見ると、なんかいろいろ汲み取ってあげたくなります。同じように一人ぼっちだったモードとも似たところがあり共鳴し合って、夫婦になったのかもしれません。

 モードの絵がふとしたことで人気を得て、どんどん人の目に触れ、人気が出るようになっても、二人は人里離れて暮らしていた小さな家を離れることなく、その家の壁や窓や家具にどんどんモードが絵を描き足すことでますます二人だけの城にしていきます。

最初は互いに生きていく上で必要だから、といった感じでスタートした関係でしたが、そこから愛情が芽生え、互いを知り、敬い、徐々に深い絆で結ばれ、お互いがなくてはならない“夫婦”という関係にまでなっていく様が丁寧に描かれ、とても温かい気持ちに包まれます。モードの影響でエベレットも晩年は絵を描くようになった、というエピソードもグっときちゃいます。本当の豊かさとはやっぱり心に宿るものなんだわ・・・そんなことを思い出させてくれる優しさに溢れた1本です。是非、お見逃しなく!
(映画を観た後にモード・ルイスでwikiってみてください・・・泣けます・・・)

By.M