ウラシネマイクスピアリブログ

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アンコール上映『ドライブ・マイ・カー』

2022/01/06

 2022年のアカデミー賞は3/27(現地時間)に開催されますが、年末年始はその前哨戦とも言われる賞レースが開催されます。2年前にポン・ジュノ監督の『パラサイト』が非英語圏の映画にも関わらず、外国語映画賞のカテゴリーでなく、本選の作品賞も受賞し、大きな話題となりました。今、その時と似た旋風を巻き起こし注目を浴びている作品が・・・。今回はアンコール上映が決定しました、1/7(金)公開『ドライブ・マイ・カー』をご紹介します。

 本作は、村上春樹の短編集「女のいない男たち」に収録されていた「ドライブ・マイ・カー』の映画化。原作を読んでいる方だと「あの短編をどうやって長尺の映画にするの?」と思われるかもしれませんが他の収録作品のエッセンスもうまく取りこみ村上春樹ワールドをしっかり映像化した上に、主人公の俳優兼舞台演出家の家福(かふく)が手掛ける演劇の制作過程も劇中で描くという大胆な肉付けをしてより広がりを持たせた作品へと変貌させました。

 家福(西島秀俊)は妻・音(霧島れいか)を亡くし、心に喪失感を抱えている男。自身の運転する愛車、赤いサーブ900に乗り、音の声で録音した芝居のセリフをカセットデッキから流し、それを聴き込むことを日常のルーティンワークにしているぐらい、彼は自分の仕事と何より妻を愛していた。

それから2年後、演劇祭で「ワーニャ伯父さん」の演出をするという仕事の依頼で愛車を走らせ広島に向かった家福が出会ったのが寡黙なドライバーみさき(三浦透子)、そして妻と親しかったと語る若手俳優・高槻(岡田将生)だった。

 物語は家福がみさきの運転する車で時間を共有するうちに少しずつ互いを知っていく過程、突然妻を亡くした事実とうまく折り合いがつけられないままでいる家福が自身と向き合っていく姿、そして妻と特別な関係にあったのではと想像される高槻とのやり取り、そこから生まれる関係性、そして家福の演出する舞台劇のリハーサル風景が交差する形でじっくりと描かれていきます。

 誰しもが経験する“喪失感”をこの映画では独特な形で描いていきます。“喪失感”は村上文学ではよく登場するテーマの1つです。若い頃は村上春樹の本は何度も読み返す程好きだった私ですが、なぜそうだったのかを久しぶりに思い出させてくれたのがこの映画でした。当時は幸いにも“喪失感”を感じる出来事が自分にふりかかることはなかったからか、村上ワールドに登場する主人公が抱える“喪失感”はなぜか魅力的なものに思えました。でも大人になって“喪失感”を経験すると自分と向き合うこと、それを抱えているということ自体を認識することすら難しい・・・というのを知ります。

 家福も自分の中にあるそういった感情とうまく向き合えていない人間として描かれています。でもみさきとのやり取りの中で自分語りしかしてこなかった自分の人生を悔い、喪失を受け止め、ついにはそれを解放するに至ります。そして家福の心境の変化は自身が演出する舞台「ワーニャ伯父さん」のテーマそのものと呼応し、リンクしていき、終盤に描かれる舞台シーンは言葉では表現出来ない程の多幸感を与えてくれます。

 この映画はとにかく完璧で美しいシーンに溢れています。映画としての強度があり、テクニカルな面もビシビシ感じるのに、全体を通すととても静謐な佇まいがある。そしてキャストの皆さんの演技も完璧で魅力的。欠点と言えば隙のなさぐらい??

 シネマイクスピアリでも上映していた本作ですが、これからさらに注目を浴びること間違いなし!ということでアンコール上映となりましたので、ぜひこの機会にご覧ください。
いざ赤いサーブ900に誘われる心の旅路へ・・・

By.M