ウラシネマイクスピアリブログ

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『劇場版 「きのう何食べた?』

 今回ご紹介するのは只今大ヒット中の映画、11/3(水・祝)公開『劇場版「きのう何食べた?」』です。

 本作の原作「きのう何食べた?」はよしながふみ著の人気漫画。料理上手で倹約家な弁護士・筧史朗(通称:シロさん)と気さくで明るい美容師、シロさんの恋人・矢吹賢二(通称:ケンジ)が仲良く暮らす毎日を描いています。二人のほんわかな日常がファンの心を掴んだのですが、シロさんが作る料理の数々も物語に華を添えています。漫画にはレシピも載っているので参考にしている方も多いのでは?

そんな人気漫画の映像化にあたりシロさんを西島秀俊さんがケンジを内野聖陽さんが演じ、脇役キャスティングに至るまで原作ファン納得のメンバーが揃い、愛されコンテンツにさらに成長しました。映画化となりましたがドラマ版の雰囲気はそのままに二人の日常が綴られます。

 映画版ではケンジの誕生日プレゼントにシロさんが“京都旅行”をプレゼントするところから始まります。ケンジ曰く「彼氏との京都旅行は乙女の憧れ♡」、いつも以上にテンションMAXですが、これまたいつも以上に優しいシロさんにケンジはだんだん不安になります。「何かおかしい。え、シロさん、まさか病気とかじゃないよね・・・」と。

結果、それはケンジの早とちり・・とは言えシロさんもケンジに伝えたいことは別にあったのですが、この壮大な勘違いが巻き起こす、ケンジの妄想がとにかく微笑ましい。そして映画の後半では、立場逆転、ケンジが若い男性と仲良さそうに商店街を歩いているところを見てしまい、気が気でないシロさん。ついには尾行までしてしまい、ケンジが病院に入っていくのを見て「え?あいつ病気なのか?」と。これらは映画のオリジナル展開ですが、二人は本当に仲良しだな~、と思わせてくれるエピソードです。

 本作ではオリジナルな部分もありますが多くは原作漫画から紡がれていたエピソードの数々がうまく散らばっているので“何食べ”ファンにとっては観たいものが観られる、そんな展開です。もちろん、物語は至ってシンプルで二人の徒然なる日常が中心なのでこれまで“何食べ”を通ってなかった方でも敷居は低いと思います。

何より、西島さんと内野さんというベテラン勢が演じるシロさんとケンジがあまりにも馴染んでいるのですぐこの世界観に溶け込めちゃう、というのもあるでしょう。食い気味のケンジにシロさんがタジタジする所なんかは西島さんが素で笑っているナチュラルなシーンもそのまま使われているので、観ているこっちも「うふふ」となってしまいます。

 ただこんな風に仲の良い二人でも時に現実に直面することもあります。今回は冒頭シロさんがケンジに伝えなければならなかった事が発端です。自分が大切に思っている人を誰よりも思いたいシロさんですが、それが一筋縄にはいかないこともあります。一方でケンジは悩むシロさんを思うばかりに自分の感情を抑えてしまうことも。お互いがお互いを思うばかりに傷ついてしまう。それが周囲の偏見によって生み出されることもあります。

コロナ禍で色々と余裕がなくなって、生き辛さがより可視化される世の中にもなってしまいましたがそんな時だからこそ向かい合うべき感情が本作ではさりげないながらも丁寧に描かれていたように思えます。

そして誰かと一緒に食事をすること、その時間をわかち合うこと、また誰かを思いながら作る料理はなんて愛に溢れた行為なんだな、と改めて思わされるのでした。

By.M