ウラシネマイクスピアリブログ

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『オールド』

 「ヴィジット」(2015年)以降ネクストステージに立ったM・ナイト・シャマランがまた私たちに新たな物語を紡いでくれました。今回は8/27(金)公開『オールド』をご紹介いたします。

 休暇でリゾート地を訪れた四人の家族。ホテルからの計らいで数名の他のゲストと共にプライベートビーチを案内されます。楽しいひと時を過ごしていた矢先、6歳のトレントの姿が見えなくなります。息子の行方を探す母親の前に現れたのは明らかに青年に成長したトレント・・・しかしそれはこれから始まる不可思議な出来事の序章に過ぎなかったのです・・・。

 魅惑的なビーチを独り占め気分で満喫出来るバカンス。誰しもが憧れる休暇の過ごし方の1つでしょう。しかしシャマランが映画の舞台に選んだ場所が天国のような所である訳がない。「私たちはお客様が大好きになりました。お客様だけ特別ですよ」というホテルの支配人の甘い言葉に惑わされ、シャマランに誘(いざな)われる(文字通りシャマランが誘います。それは映画を観てのお楽しみ!)。が、そこはものすごい速さで時間が経過してしまう場所な上に一度踏み入れると元の世界に戻れない、脱出不可能な場所だったのです。何じゃそりゃーーー。

女性の水死体が流れ着いてくるわ、助けを呼ぼうにも携帯電話の電波は繋がらない、元いた場所に引き返そうにも謎の現象に襲われ、結局砂浜に戻ってしまうという不可解極まりないこのビーチに一行は閉じ込められ大パニックです。しかも子供はみるみる成長し、大人は猛スピードで老いていく。途中、何とかこの場所から逃げようと断崖絶壁をクライムする者も現れますが、どんな結果になるかは推して知るべし。

 映画は「この場所は何なんだ!」「彼らに何が起きているんだ?」というミステリー要素に、ホラー要素も加わり、観ているこちらもどんどん追いつめられていきます。でも解決策は見い出せぬまま、その予兆すら感じられないままに一行は一人、また一人命を落とすこととなるのですが、シャマランはある事実を我々に付きつけます。それが何だったかはもちろん、映画を観てのお楽しみなのです。(ニヤリ)

 この映画を観ているとやっぱりシャマランは“魅惑のストーリーテラー”だわ~と感じます。本作も前述したように入口はホラーやミステリーなのですが、次第とシャマランが伝えようとしているに違いないテーマが浮き彫りになっていきます。タイトルでズバリ表現している“オールド”。“老いる”ことがまさにテーマの根本にあります。シャマランはインタビューでこの映画を「両親の老いを目の当たりにした自身の心情を描いた」とも語っています。面倒をみて貰っていたのに、いつしか自分の方が面倒をみるようになる、といった親子の立場の逆転、またこの先に確実にある自分の老いについての恐怖、そういった感情が本作の様々なシーンに投影されているのを感じます。

加えて、コロナ禍に撮影となったこの映画、行こうと思えばどこまでも広がっていた日常から一転、閉ざされた世界に追いこまれた我々はまさにビーチで孤立した一行の姿とも重なります。みるみるうちに成長してしまった子供たちが「プロムに行きたかったな」とつぶやくシーンなんかは、コロナ禍でいろいろな経験が出来なくなった今の若者たちの言葉にも聞えて何だか切なくなったり・・・映画の前半ではビビっていた私も気付けばセンチメンタルな気持ちになり「そうだよ、シャマラン映画はいつもエモなんだよ・・・」と再確認したのでした。

 本作には元ネタとなっているフランスのグラフィックノベルがあり、元々シャマランの3人の娘さんからプレゼントされた本だったそうです。そしてそのうち一人がこの映画の第二撮影班、一人が音楽を担当しているという。家族と一緒に作った家族の映画、やっぱりシャマラン、エモいぜ!

By.M