ウラシネマイクスピアリブログ

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『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

 既に公開中の作品ですが、観た方が絶賛しているこの映画を今回はご紹介いたします。
6/12(金)公開『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』です。

 しっかり者の長女メグ(エマ・ワトソン)、おてんばで自立した大人になりたい次女ジョー(シアーシャ・ローナン)、病弱だけど誰よりも人に優しい三女ベス(エリザ・スカンレン)、甘えん坊だけど勝気な四女エイミー(フローレンス・ピュー)、と違った個性を持つマーチ家の四姉妹がそれぞれの幸せにむかっていこうとする姿をジョーの目線で描いていきます。

 150年以上も前の古典文学がなぜ今、映画化されアップデートされるのか?と思ったのですが、とにかく“今”の映画であった事に興奮しきりだった本作。そもそも考えてみれば古典は語り継がれるメッセージが普遍的であるからこそいつの時代の人にも愛され、永遠に残り続けるものなのですが・・・

 価値観や個性の異なる四姉妹を通し、それぞれが自分の幸せについて考えあぐねる様は「昔も今も女性が“幸せ”を求めて生きるのって大変」と思わされるエピソードと共に語られていきます。(いえ、誰だって生きていくのは大変ですが、男として、女としてみたいな修飾語がついた上での“幸せ”を求めると、求められる時代だと・・・という意味で・・・)それでも四姉妹(+お母さん+お手伝いさん)というシスターフッド的関係で結ばれる彼女たちの日常はとても温かく微笑ましいものです。

そんな中で小説家になりたいジョーは譲れないものが明確にあって周りと衝突ばかり。この時代は女性が自立することはいわんや、とにかく結婚して(自活が出来ないから可能な限り条件のいい男性と)家庭を築くことを第一に求められています。冒頭、NYの出版社に自身の小説を持ち込んだ時も「最後はハッピーエンドに」「もっと大衆的なものを」と言った杓子定規なアドバイスしか貰えません。

「なんで女性の幸せは1つしかないと思わされるの」と憤るジョー。誰もが何かのジェンダーでカテゴライズされる以前に一人の人間(個)なのに、“らしさ”といった既成概念で人を縛ろうとする風潮は今も昔も変わらないので、ジョーにとっての生き辛さを自分のそれと重ねてしまう人も多いと思います。それでもこの冒頭のエピソードをうまく回収し、原作者イーザ・メイ・オルコットの想いまでも組んだ完璧なエンディングが描かれるところなどは特にシビレます。

 また四女エイミーを『ミッドサマー』で一躍注目を浴びたフローレンス・ピュー(以下ピューちゃん)が演じてますます血が通ったキャラクターになっているのも魅力。甘えん坊だけど実は現実的。優れた才能を持つ姉の元で自身も才能があるに二番手に過ぎないと自分に暗示をかけてしまった女の子。

これまでのどんなエイミーより印象的で魅力的なキャラクターになっていて、『ミッドサマー』の後が本作の撮影だったそうですが、それもあってよりノビノビと演じているのか?!とにかくピューちゃんの存在感、その輝きが眩し過ぎる!!

 そして忘れてならない、ジョーの幼馴染ローリーを演じるティモシー・シャラメ。喧嘩もするけどまさに同士的な絆で結ばれている二人が互いを心から必要とし、信頼しあってるやり取りが絵になるってもんじゃない。四姉妹のキャスティングが完璧な上にシャラメがローリーを演じたからこそ実現したこの“若草物語”ワールド感にこれ以上のものは今後望めないんじゃないか、と思ってしまうのです。もうそれほどに完璧!

 だいたいなぜこの映画が特にアカデミー賞監督賞にノミネートされていなかったのか不服を申し出たいぐらい。監督はグレタ・ガーウィグ、本作が気に入った方は是非グレタ関連作「フランシス・ハ」、「レディ・バード」あたりもオススメします。

 多くの人に愛されてきた『若草物語』に現代的な演出が加わり、瑞々しい登場人物たちの息づかい、躍動感が感じられる本作、映画を観た後は街を駆け抜けたくなる衝動にかられるかもしれません。

By.M