ウラシネマイクスピアリブログ

映画を愛するシネマイクスピアリの宣伝担当者が
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『マイ・ビューティフル・デイズ』

 アナ雪旋風が再び吹き荒れているシネマイクスピアリですが、他にもいろいろ映画は公開されますよ、という事で11/29(金)~2週間限定公開『マイ・ビューティフル・デイズ』をご紹介いたします。

 本作の原題は「Miss Stevens」、高校の英語教師レイチェル・スティーブンス(リリー・レーブ)は生徒に頼まれて週末3日間、演劇大会の引率をすることになります。参加者はクラスのリーダー的存在のマーゴット、明るいサム、無口なビリー(ティモシー・シャラメ)の3人の生徒。出発前に校長先生からビリーが行動障害を抱えていることを知らされ「くれぐれもトラブルがないように」と念を押され、彼らはレイチェルの運転する車で大会に向かいます。

本作はスティーブンス先生ことレイチェル目線で物語は進みます。生徒には思いやりをもって接するいわゆるいい教師なのですが、以前ほどの情熱をもって仕事に向かえない感情や大好きだった母を亡くしたことで喪失感を抱え、彼女は迷いの中にいます。とは言え、生徒の前で只今絶賛五里霧中!な自分を見せる訳にいかない彼女は教師として節度ある距離間でもって3人と接するのですが、ビリーはちょっと違ったのです

学校といういつもの場所を離れ、生徒3人、先生1人というちょっとした解放感の中、ビリーのレイチェルに対する恋心はどんどん表面化。ビリーが自分を教師として好きと思って貰う分には構わないけれど、異性として好意を持たれる訳にはいかず、おまけに自分の中でもいろいろ悩みを抱え心が弱っている中、レイチェルは酷く動揺・・・。まもなく30歳を迎える29歳という年齢設定も彼女の心の揺らぎをさらに加速させます。そう、女性にとって30歳を越える時期というのは他のどのステップより、違った感覚があるものです。

生徒たちといると楽しい反面、教師として大人としてありたい自分とのギャップに余計悩んで、滞在先の部屋に一人戻ると落ち込むばかり・・・自分を見失いそうになるレイチェルをリリー・レーブがリアルに演じていてとても胸に刺さります。

そして悩めるレイチェルの心情を誰よりも察したのがビリーでした。コミュニケーションを取るのは苦手な彼ですが、繊細な心を持っている分、まっすぐに彼女に寄り添うことも出来たのです。だからと言ってこの映画でビリーとレイチェルが互いに恋愛感情を持つ、といったような安易な展開になるのではなく、(マーゴットやサムも加わり)他者との関係性において助け合い、影響し合っていく様子が描かれ、とても優しく爽やかな印象を私たちに与えてくれます。

またこの映画を語る上でビリーを演じた、ティモシー・シャラメの存在は必須でしょう。(ティモテ・シャラメが本来の呼び名のようです)「君の名前で僕を呼んで」(アカデミー賞主演男優賞ノミネート)でブレイクした彼ですが、この撮影はそれ以前、ほぼ無名な時期のシャラメくんです。が、映画の終盤、演劇大会の決勝で「セールスマンの死」の一場面を演じる彼は今の活躍が大きく頷けるほどのまさに圧巻シーン。「才能を持って生まれて来たか・・・」と思わずつぶやきたくなるのでした。

 本作は決して派手さがある映画ではありませんが、悩み多き高校生や喪失感や得も言われぬ不安にかられるアラサー女性の等身大の感情が瑞々しく描かれるとても魅力的な1本です。これから季節はどんどん冬らしくなりますが、この映画の中では温かい兆しを感じとってもらえると思います。

By.M