ウラシネマイクスピアリブログ

映画を愛するシネマイクスピアリの宣伝担当者が
今後の上映作品を
ウラからナナメから眺めてそっと語るオフィシャルブログ

『羊と鋼の森』

 まもなく梅雨の到来でしょうか?ジメジメした時期にうってつけな爽やかな映画をご紹介いたします。先日、天皇皇后両陛下もご鑑賞された6/8(金)公開『羊と鋼の森』です。

 北海道の山間で育った17歳の外村(山﨑賢人)は通っていた高校で板鳥(三浦友和)の調律したピアノの音に魅せられ、調律師になる夢を追うことになります。専門学校を卒業し、新米調律師になった外村は先輩の柳(鈴木亮平)に付いて仕事を学び、様々な人々と出会い成長していきます。(本作の原作は2016年本屋大賞を受賞、第154回直木賞ノミネートと話題を集めた宮下奈都さんの同名小説です)

 それまで特に目標も持たずに生きてきたけれど「これだ!」と感じ取り、一目散に夢に向かって突き進む外村。でもピアノの経験も音楽の素養もないことが当然のように彼のコンプレックスになります。それでもこの仕事に情熱を持ち、いつも小まめにメモを取るような真面目な姿勢に先輩調律師たちは温かく彼を見守り、支えるのです。

 そんな中で彼の仕事の分岐点となるのが高校生姉妹の和音(上白石萌音)と由仁(上白石萌歌)との出会い。タイプは違えどピアニストとして抜群の才能を持つ姉妹の関係性はそれ故にセンシティブなところがあります。客観的に見るとそれぞれに魅力があって、どちらも素敵なんですが、当事者にすると自分にない魅力は想像以上に自分のマイナス要素になってしまう。この姉妹、妹の由仁の方が明るく、積極的、ピアノの音色も力強く、どうしても姉の和音の方が消極的になりやすく、彼女は自分の内へ内へ感情を貯め込んでしまいます。

この二人を実の姉妹である上白石姉妹が演じるので余計にグっときてしまう。プライベートでもとても仲良しとお見受けするお二人ですが、和音と由仁のように自分にはないものを相手に見つけた時に近い存在だからこそ励みになることもあればプレッシャーになることもあるんだろうな、と。二人のキャスティングがこれ以上ない程にピッタリで、余計に感情移入しちゃいます。

 そして外村はそんな和音を見て、せめて自分に少しでも役に立てることはないかと悪戦苦闘するのですが、それが却って彼女を苦しめることにもなり、余計に自分のふがいなさに気付かされたりで、壁にぶつかってしまいます。音楽や芸術全般、その善し悪しは好みに左右されたり、感覚的なもの、直観的なものが影響することが多々あります。「優しく包まれるような音色に調律してほしい」と要求された時、求められる音色に対して共通認識を持たねばならないし、それをどのピアノでどんな空間で演奏するかといった外的要因も加わり、その判断は複雑化していきます。加えて、技術的なスキルがあるだけでは足りず、経験や感性も必要になってくる・・・。これという正解が確かにある訳ではないだけに細心の注意が必要だし、いい加減なことをするとすぐバレてしまいます。

でもそれは我々が普段仕事をする上でも同じで、ある仕事に似たような結果が出ても、そこに“想い”があるか否かで結果以上のものを得ることだってあります。この映画はピアノの調律という一風変わった世界のお話ですが、ひたむきに仕事をする外村やそれを見守る人々の姿を見ていると、どんな仕事にだって共通することを問うているんじゃないかな、と思えます。

 運よく自分にとって好きな仕事に就けた場合でも、失敗したり、才能のある同僚がいると「好きなだけではやっていけない・・・」と落ち込むけれど、好きという思いがないとそこから這い上がることも出来ない。人は自分が自分で勝手に作り上げたものと闘っていることが多いものです。

 何だか久しぶりに清々しくまっすぐな映画を観た気がします。私は運よく好きな仕事に就けましたが、上手くいかない時は外村が憧れた板鳥さんを妄想上司にして、次の一歩を踏み出そう!と思う今日この頃です。(だって友和さん、素敵なんでもの。)

By.M