ウラシネマイクスピアリブログ

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『かがみの孤城』

 街は華やぐ時期ではありますがこういう作品をじっくりご覧いただくのもいいかな、と言う訳で今回おススメする作品は直木賞作家・辻村深月のベストセラーにして史上最多得票数にて本屋大賞受賞した小説をアニメ化、12/23(金)公開『かがみの孤城』です。

 主人公は中学生のこころ。学校に行けず部屋に閉じこもる日々。ある日突然、鏡の中の不思議な城に迷い込み、そこで見知らぬ6人の中学生と出会います。“オオカミさま”と呼ばれるオオカミの仮面をかぶった少女が現れ、自分たちは選ばれし人間でお城のどこかに隠された鍵を見つけたらどんな願いも叶えると告げられます。城にいられるのは9時から17時まで、その約束を1人でもやぶると連帯責任で罰を与えられるといったルールの中で7人は現実と城の世界を行き来するようになります。

 何かにどん詰まった時、若い時分は目の前の世界だけが全てと思ってしまうので自分で自分を追い込んでしまいます。成長と共に生きるためのスキルを獲得していくので、大人になればもっと楽に解決方法を見出せるのですが・・・

 この孤城にたどり着いた7人もここしかないと思い込んでしまい自分の世界で居場所を見つけられず悩んでいる子供たちです。彼らは名前を伝える以上のことをするでもなく、ただお互いのそのままを受け止めます。この城で鍵を見つけることが目的なのに、最初は然程真剣に探すでもなく、ゲームをしたり、おしゃべりをして時間を過ごしますが、こころは他の子たちも自分と同じく学校に行っていないんだとなんとなく気付いていきます。城にいられる時間は彼女たちの年齢なら普段、学校に行っている時間だったから。

お城という逃げ場所は出来たものの現実世界に戻ってもこころの問題がそう簡単には解決する訳もなくやっぱり孤独を抱えているのですが、自分と似たような境遇の子たちがいることを知り、自分だけが一人じゃないという思いが少しずつ彼女の心を変化させていきます。

 悩みにぶち当たっとき、大人であれば「ここだけが全てじゃないから」と逃げることが選択肢の1つにあることを知っています。そうであるのに、大人はしばし子供たちには「もうちょっと頑張りなさい」と、ここにいることを強いてしまうことがあります。この物語でも大人たちはここで頑張ることを簡単に強要してしまい、それが子供たちを深く傷つけます。

 なぜこの7人が選ばれたのか、不思議な世界は何なのか、果たして鍵はみつけることが出来るのか、といった謎解き要素がこの映画の大枠にあるのですが、それを通して描かれることは“ここでなくても大丈夫”、ということなんだと思います。お城でこころたちは友を得て、助けを求めていた側から、ついには自分じゃない目の前の誰かを助けようとするまでになるから。そんなこころや仲間たちの成長が描かれる特に終盤はアニメで描いたからこそのシーンになっているので、原作を愛読された方にもぜひ観ていただきたいです。

 こころたちと似たような経験をしたことがある人にはこの映画はどうにか逃げ道を見つけここまでたどり着いた今の自分を肯定でき、今まさに悩む人にはこの映画自体が逃げ場所になるんじゃないかな、と思えます。

そして逃げ場を作ることは自分を守ることで、それも世界と戦うことに等しいことだとこの物語は教えてくれている気がします。

By.M