ウラシネマイクスピアリブログ

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FLEE フリー

 今回ご紹介する作品は本年度アカデミー賞で史上初、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門ノミネートを果たした6/10(金)公開『FLEEフリー』をご紹介いたします。

 主人公はアフガニスタンで生まれ育ったアミン(仮名)。父親は幼い頃、当局に連行された。残された家族はやがて訪れた政変と内戦のため祖国脱出を決意する。唯一観光ビザがとれたロシアに入国するが、難民である彼らには安住の地である訳もなく、そこからさらに西ヨーロッパへの移住を試みようとする・・・

 映画の冒頭で「故郷とは?」と問われたアミンは「安全の地。そこにいることが出来て、よそに行かなくて済む場所。一時的ではない場所」と答えます。そして映画のタイトル“FLEE”は切迫した状況において使用される“逃げる”“逃亡する”の意。“故郷”と言う語幹からは馴染みある風景、親しい人の顔、穏やかな想い出が浮かびあがるものですがそこから“flee”しなければならない状態にある人(人々)の話、そう思うだけで胸が締め付けられます。

 この映画は本作の監督であるヨナス・ポヘール・ラスムセンが現在は研究者として成功を収め30代半ばになったアミンにインタビューするという方法で進められ、そのインタビューシーンやアミンが経験したことはアニメーションで、過去の実際の出来事は当時の映像を使用するため、本作はアニメーション映画であり、ドキュメンタリー映画なんです。アニメーションという手法により表現に自由度が増すという利点を持ちながら、アニメーションでないとこの映画は完成しえなかった理由に観客が気付かされた時、アミンが背負う人生の重さをも理解することとなります。

 二人は中学時代にアミンが1人でデンマークにやって来たことで出会い、仲良くなったのが始まり。それでもアミンはこの地に来る以前のことを決して多くを語らなかったそう。大人になった今でも恋人にすら話せていなかった過去をゆっくりとヨナス監督に話し始めます。そこで語られる彼の半生は筆舌に尽くしがたいものでした・・・

戦火を逃れるために祖国を追われたこと、モスクワに辿りついてもビザが切れた後は不法滞在者として警官たちにぞんざいに扱われたこと、密入国するために狭いコンテナや船底に押し込められ、あげく送還され難民収容所に入れられたこと、家族と離れ離れになったこと・・・彼らが悪い訳ではない、国の権力者らが勝手に始めた争いの下、それを望まぬ人々にツケは回され常に彼らが一番の犠牲を被ることを痛感させられます。そしてそんな壮絶な経験がアミンに多くのトラウマを植え付けたことは言うまでもありません。

 アミンは難民であることで迫害を受けることにもなりますが、同性愛者であったことがさらに彼を孤独にさせます。アフガニスタンでもロシアでも同性愛者は存在しないものとされていたから。難民だったことで抑圧されていた上に周りの人とは違うという疎外感の中で彼が自分の殻に閉じこもって生きなければならなかったこともどれだけのことだったか・・。

それでも彼は奇跡的にデンマークの地に辿りつきます。難民であること、セクシャルマイノリティであること、家族の数々の犠牲の上で今の自分があること、彼は常に追い目を感じて生きていました。そんな様々なことから自分を閉ざしていた彼が、理解ある家族や友だちの存在、パートナーとの出会い、そしてこのヨナス監督とのインタビューを通して少しずつ自分を解放していく様には強く心を打たれ、次第と安堵の気持ちも芽生えます。

彼がこのままどうか幸せに穏やかに過ごし、彼にとっての新しい“祖国”が見つかりますようにと願って止みません。と同時にかつてのアミンのような境遇にある人が今もなお多く存在していること、それは決して遠くの国の話ではないということも忘れてはいけないのです。

 この映画は音楽もとても効果的に使われていますが、冒頭で幼い頃のアミン少年が嬉しそうに聴いているのは
a-haの「Take on me」。“Take on me(僕を受け入れて)”、アミンが生きのびていく上で常に抱いていた感情を象徴するようなこの楽曲が流れるのもとても印象的です。

By.M