ウラシネマイクスピアリブログ

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『ラストナイト・イン・ソーホー』

 今回ご紹介する作品は描かれる舞台ももう一人の主人公、12/10(金)公開「ラストナイト・イン・ソーホー」です。

 主人公はファッションデザイナーを夢見るエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)。憧れのロンドン、ソーホーのデザイン学校に入学するも周囲には馴染めず、寮も飛び出してしまう。そして一人暮らしを始めた彼女は眠りにつくと60年代のソーホーにタイムスリップ、その部屋に住んでいた歌手志望のサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)と出会う。魅力的な彼女に心奪われるエロイーズは夢の中で彼女を追い続けているうちに、サンディの身体や感格が自分のそれとシンクロしていくような錯覚を覚える。そしてある日、サンディに悲劇が起きる・・・

 本作は『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督の最新作でサスペンス・ホラー、タイムリープ・サイコ・ホラーと表現されるけれど、音楽、青春、ラブとそれ以外のいろんな要素も詰まりまくった監督こだわりの1本です。タランティーノが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で大好きな60年代のハリウッドを描いたようにエドガーは本作で思い入れたっぷりの60年代のロンドン、ソーホーを描きます。カルチャー男子なエドガーなので、その世界観は音楽もファッションもどれもセンス抜群!(前作の『ベイビー・ドライバー』の冒頭よろしく)エロイーズが歌って踊るミュージカルシーンから始まる冒頭から期待値が上がっちゃいます。

 先ず目を引くのはエロイーズを演じるトーマシン・マッケンジーとサンディを演じるアニャ・テイラー=ジョイ。近年のその活躍が目覚ましい二人は演技、歌、ダンス、その表現力とどれをとっても才能があるし、現在進行形で輝きを放っているのでその様がスクリーンに映し出されているだけで心がときめいてしまいます。

 でもそんな女の子を愛でるだけの映画ではもちろんありません。二人には“叶えたい夢がある”という共通点があります。エロイーズはデザイナーを夢見て一人都会にやってきました。でも60年代カルチャー好きという同世代の女の子にはない感性もあって浮いてしまい、周囲とも馴染めずで一人ぼっち。都会的で何歩も前を行く友達に、そして刺激的な街そのものに圧倒され飲みこまれてしまいます。(わかるわ~)そんな彼女はますます大好きな60年代の音楽やファッションが心の支えになります。

 一方60年代のソーホーにいるサンディは歌手になりたいと積極的に自分を売り込み、憧れの世界に近づこうと足を踏み入れるのですが彼女が追っていた夢は気付けば悪夢へと形を変えていきます。夢の中でサンディとシンクロしてしまうエロイーズは彼女をなんと助けようとするのですがサンディの身に危険が迫りくる時、物語は想像だにしない方向に動き出すのです。

 エロイーズはサンディを通して憧れ続けていた60年代はたった1つの側面でしかなく、夢を抱いていても容赦なくそれを食いものにする闇があることも知ります。成功による輝きが社会の暗部、弱き者の犠牲よって成り立っている、そんな残酷な現実をも・・・・。そして悲しいかなそれは現代でも変わらずあり続ける事実でもあります。

 それでもタランティーのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中で過去に起きた忌まわしい出来事にリベンジしたように、エドガーもこの映画でリベンジし、エロイーズを通して今、孤独に生きる若者にも強く進め!と背中を押してくれた気がします。

 愛すべきボンクラ映画(『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホットファズー俺たちスーパーポリスメン!』)で人気を得たエドガー監督ですが、彼らしさそのままにさらにバージョンUPした本作を観ると、これからの作品も楽しみで仕方ありません!!
もちろん、トーマシン、アニャの活躍もね。

By.M