ウラシネマイクスピアリブログ

映画を愛するシネマイクスピアリの宣伝担当者が
今後の上映作品を
ウラからナナメから眺めてそっと語るオフィシャルブログ

『竜とそばかすの姫』

2021/07/16

 夏の風物詩映画と言えば、この方の登場ですね。日本の夏、細田アニメの夏、今回ご紹介するのは7/16(金)公開『竜とそばかすの姫』です。

 主人公は高知の田舎町に住む高校生のすず(声:中村佳穂)。幼い頃に母親を亡くしてから、大好きだった歌が歌えなくなった彼女はそれ以来心も閉ざしてしまっています。ある日、世界50億人が集うネット上の仮想世界<U(ユー)>で“ベル”というアバターを手にし、そこで歌姫として人気を得ていきます。そんな彼女が<U>の世界の秩序を乱すものとして忌み嫌われている竜(声:佐藤健)と出会うのですが・・・

 物語は色彩の洪水のようなカラフルでポップな<U>の世界観の中で“ベル”が歌うシーンから始まり、一瞬で映画の世界にダイブ!からの、自然溢れる田舎町で普通の高校生らしい生活を送るすずの日常が描かれます。すずが今のような内気で殻に閉じこもった少女になってしまった過程が『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭のように、台詞なしのシークエンスで描かれ、動と静の細田ワールドをビシビシと感じるオープニングです。

 今回の注目ポイントはこれが細田版『美女と野獣』という一面があること。「『美女と野獣』が大好だ」と語る細田監督が「現実と虚構という二面性を持つネットの世界で『美女と野獣』を描いたらどうなるだろう・・」と考えたのがこの作品を手掛けるそもそものきっかけだったとか。

 すず=“ベル”というどストライクなネーミング、心優しい主人公が誰とも心を交わそうとしない孤高の竜の本当の姿を見抜き・・・といった展開、『美女と野獣』といったらあれ!と誰もが思い浮かべるオマージュ的シーンもふんだんで、「こんなにも真正面から『美女と野獣』と思わなんだ」とビックリしつつ“現実と虚構の世界の二面性”を描くにはピッタリの題材なんだな~、と納得してみたり。

 また“ベル”のキャラクターデザインを『アナと雪の女王』など数々のディズニー作品を手掛けてきたジン・キムが手掛けていることもあり“ベル”のキャラクター、立ち振る舞いもディズニープリンセスを彷彿させるので、これはもうディズニー映画の皮を被った細田アニメといって過言ではないでしょう!?

 そして何と言っても主人公のすずが歌姫ベルとして注目されること、またその歌声でもって人々の心を動かし、震わしていくので“音楽”が何よりものパワーをもっています。ベルの声の説得力がこの映画の出来のかなりの%を占めると思いますが、演じる中村佳穂さんの歌声を聴けば「なんて最高のキャスティングなんだ!」と誰しも思うに違いありません。聴いた人の心を捕えて離さない彼女の歌声とKing Gnuの常田大希氏が率いる“millennium parade”ほか4人の音楽家が集結し提供した、完成度の高い楽曲が見事に癒合し、その音楽たちに包み込まれると自分も<U>の世界に没入している感覚に。それはきっとこの夏一番の映画体験になると思います。

 すずは仮想世界で特別な存在にはなりますが、どこにでもいるような女の子です。クラスメイト、親友、好きな人、父親、様々な人々との関係性や仮想と現実の二面性の中で悩み苦しんでいます。そんな彼女が仮想空間でも現実社会でも周囲の人たちに助けられ、エールを送られながら前進していく姿はネットの世界が益々日常と共にある今だからより説得力を持つ物語にもなっています。同じような悩みを持つ人も閉塞感を感じている方もこの映画が、ベルの歌声がその感情をきっと解き放ってくれるんじゃないか、そうなればいいなぁ、と思います。

By.M