ウラシネマイクスピアリブログ

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『ミナリ』

 コロナの影響で毎年恒例の映画の祭典も後ろ倒しでの開催で、アカデミー賞ノミネート作品もやっと先日発表されました。今回ご紹介するのは作品・監督・主演男優・助演女優ほか6部門ノミネートの話題作、3/19(金)公開『ミナリ』です。

 1980年代、農業で成功することを夢見てカルフォルニアからアーカンソー州の田舎に家族と共に引っ越してきた韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)。「今度こそ」と意気揚々なのですが、荒れた土地、住居となるボロボロのトレーラーハウスを前に妻のモニカ(ハン・イェリ)は不安でしかありません。長女のアン(ネイル・ケイト・チョー)と末っ子のデビッド(アラン・キム)もそんな両親に従うしかありません。

でもモニカの不満は日に日に溜まる一方だったのでジェイコブは韓国からモニカの母(ユン・ヨジョン)を呼び寄せて彼女の負担を軽くさせようとします。風変わりなおばあちゃんが加わり家族5人の生活が始まるのですが、思うように物事は運びません・・・・。

 本作はブラッド・ピット率いる製作会社PLAN Bと気鋭のスタジオA24という映画ファンが信頼を寄せている2つの会社がタッグを組んで制作し、既にゴールデングローブ賞を始め数々の映画祭でノミネート&受賞をしている話題作。監督は『君の名は。』のハリウッド実写版に抜擢もされているリー・アイザック・チョン、彼の半自伝的ストーリーです。なので末っ子のデビッドはおそらく監督の分身かな、という気がします。

 劇中の会話の多くが韓国語、アメリカンドリームを求めて韓国からやって来た家族たちの話がなぜこんなにアメリカで注目を浴び、共感を得ているのか、というのが観るまではとても不思議だったのです。が、アメリカ人の多くが移民だったり祖先が移民だった、という境遇でこの家族の日常はアメリカ人にとっても原風景なんですよね。

そしてこの映画は誰目線で観るかによっても感じ方が変わってくるようにも思えます。夢を抱き必死にチャレンジし、その先には成功がある、と子供たちに明るい未来を見せたい夫。そんな無謀な夫に「現実を見てよ」とイライラが募る妻。新しい生活が始まったばかりなのにケンカばかりしている両親に不安げな子供たち。それぞれの目線に立てば各々の思いが広がるので共感したり、それってどうなんだ?と思ってみたり。でも描かれることはとても普遍的なことなので心にじんわりとくるんです。

 そこにスパイスとなるのが韓国からやってきたおばあちゃん。子供と遊ぶために花札を持ち出したり、料理は不得意、口も悪かったりでかなり飛ばしています。デビッドも「こんなの思い描いたおばあちゃんじゃない」と関わることを嫌がるのですが、次第と子供たちもおばあちゃんに巻き込まれていく様がまたいいんです。おばあちゃんを演じるユン・ヨジョンは長いキャリアながら役の大小問わずたくさんの映画に出演し、どんな役でも強い印象を残す。そんな彼女には本年度のアカデミー賞助演女優賞を受賞してほしい!と個人的にも強く願っています。

 タイトルの『ミナリ』とは韓国語で“セリ”を意味します。どこでも逞しく育ち、二度目の旬が美味しいと言われ、おばあちゃんからも「ワンダフル・ミナリ♪」と呼ばれるこの植物はまさにこの家族の象徴です。この地に着くまで長年ひよこの雄雌を鑑別する仕事をしていたジェイコブ。オスのヒヨコは卵を産まないし、食用としてもイマイチなので区別した後ただ焼却されるだけの存在。そんなヒヨコのように「役に立たない」と思われたくはない、ミナリのように逞しく根を張り、次の世代(子供たち)にさらに大きなバトンを渡したいと願うジェイコブはこの地で何を手に入れるのでしょうか・・・。

 素朴さの中に家族のあり方の変わらない佇まいを描いたこの作品は我々にとっても近しさを感じるものになっていると思います。


By.M