ウラシネマイクスピアリブログ

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『罪の声』

 “キツネ目の男“という単語、ある一定の年齢以上の方ならピピンとくると思います。有名食品会社社長の誘拐から端を発し、全6社をも標的にした脅迫事件、ついには青酸ソーダ入りの菓子ばら撒き事件にまで広がり日本中を混乱に陥れた企業脅迫事件。2000年に時効をむかえ、今もなお謎が多いこの事件をモチーフにその真相を追うこととなる二人の男の姿を描き、大きな話題を読んだベストセラー小説の映画化、今回ご紹介する作品は10/30(金)公開『罪の声』です。

 既に時効になっている未解決事件「ギン萬事件」を追う特別企画班に選ばれた新聞記者の阿久津(小栗旬)。その事件で犯人グループが身代金の受け渡しの脅迫テープで三人の子供の声が使われていたことがどうも気がかりだった。一方、京都のテーラーを営む曽根俊也(星野源)はある日、父の遺品から古いカセットテープを見つける。そこに録音されていたのはあの事件で使用されていた脅迫テープの子供の声。それは自分の声だった・・・

 もうこの導入から物語の展開が気になる方も多いと思います。原作者・塩田武士さんは元新聞記者、綿密な取材に独自のストーリーを折り込み「本当にそうだったんじゃないか?」と思わせるフィクション小説を完成させ、高い評価を得ました。映画化においても阿久津が事件の真相に着実に迫って行く過程は、虚構とわかっていてもあたかも真実だったように思わされる説得力を持った描写で度肝を抜かれます。それと並行して事件に子供の頃に関わっていたという衝撃の事実を知ってしまった曽根、それぞれが事件を追っていく中でその捜査線が結びついていく過程にグイグイ引き込まれます。

 現実と見紛う“謎説き”という要素を見事に映像化し、物語が進んでいくところにミステリー映画としてのエンタメ性を発揮しながらもこの映画は阿久津、曽根という二人の生き様、また知らぬうちにこの事件に関わることとなった曽根以外の二人の子供たちの人生も丁寧描いたことで作り手たちの熱い気持ちも感じ取れる作品にもなっています。

 元は政治部の記者だったもの、自身の仕事に疑問を持ち、今は文化部にいる阿久津がこの事件と曽根と出会うことで報道とは何か?というジャーナリズムのあり方を今一度考えるきっかけを得るところはまさに今の報道がエンタメショーとして一気に過熱し、消費される様の問題提起にもなっています。

一方、曽根俊也は平凡に幸せに暮らしていた自分が無自覚だったとは言え、あの事件に関わっていた、というまさかの事実に困惑します。自分には家族がいる、そんな中で全てを失うかもしれない恐怖を感じる、と同時に何でこんな事になってしまったのか、また自分と同じようにこの事件に関わってしまった二人の子供たちは今、どんな気持ちでいるのか、どうしているのか。その真実を知りたいと思ってしまった曽根が阿久津と共に手繰り寄せた真実は“昭和を代表する未解決事件”という響きからは到底かけ離れた人生を辿ることとなる別の意味での本当の被害者の悲しみを浮き彫りにしていくのでした。

 メインキャストに小栗旬×星野源とピンで主役を張れる二人の初共演という話題性もありながら、彼らがそれぞれに今の人気を納得させられる演技力を発揮し、また脇キャラに至るまでいい顔の面々が揃っていて、見応え充分な1本、あの事件を知らない方にもぜひ観てほしい社会派エンタメ映画の誕生ですYO!

 「逃げ恥」「MIU404」ファンの皆さまにおかれましては、本作の脚本がそれらを担当した野木亜希子さんであることもお伝えしておきます。

By.M