ウラシネマイクスピアリブログ

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『殺さない彼と死なない彼女』

 今回の作品ですが、ここで扱うのは珍しいジャンルかもしれません。ポスターを見ただけの時は私、正直ナメてたんです(笑)いや、本当にごめんなさい。いい意味で裏切られて今ではすっかりオススメしたい心の1本、11/15(金)公開の『殺さない彼と死なない彼女』をご紹介いたします。

 何ものにも興味を持てず退屈な高校生活を送っていた小坂(間宮祥太朗)はある日、教室で蜂の死骸を埋葬しようとしていたクラスメートの存在を知ります。彼女は「死にたい」が口癖の鹿野(桜井日奈子)。自分の命はそうでもなさそうなのに蜂の命は重んじる彼女に小坂は興味を持ち始めます。Twitter発信で人気となった4コマ漫画、そのいくつかのエピソードを集めて1つの物語として紡いだのが本作です。

 小坂と鹿野という二人の他にも、誰からも愛されるけれどそれに満足出来ないきゃぴ子(堀田真由)とそんな彼女が無条件に大好きな地味子(恒松祐里)、そして大好きな彼に好きだと想いを伝えずにはいられない撫子ちゃん(箭内夢菜)と毎日告白されても好きという感情がわからない八千代くん(ゆうたろう)という全部で3組の話が並行して語られます。

みんな魅力的な存在ではあるのですが、この年頃の子が大概そうであるようどこか自分が“足りない”と感じていて、自分にはないものを持っている他者に惹かれ、その人の側にいたい、と願っています。自分にはないものをその人の中に感じるからその人をとても好きだし、自分にないものをその人が補ってくれるかのようで一緒にいられると自分までも充たされたように思えたり・・・。そう感じる時は自分の存在ばかりが小さく申し訳なくなり、自己肯定が揺らぎがち。でも人との関係性って互いが補完し合うものなので、本当はお互い様、なんですけどね。

 誰しもが1度は経験する感情がとても丁寧に描かれるし、“高校生”という特別な瞬間に生きている彼らが立ち止まっちゃったりするものだから余計、その感情の移ろいが眩しくも見えて、戸惑いの時代なんてとうに過ぎた大人が観ても心動かされてしまうのかもしれません。

そんな風にこの映画にちょっとセンチメンタルな気持ちを抱いてしまうのは映画的なことを言えば、この作品が自然光で撮影されていて、長回しのシーンがとても多いことも影響していると思います。準備と手間もかかる撮影方法ですが、幸運にもそうした環境で作られたおかげでこの作品からはぬくもりが感じられ、全体の雰囲気もとても柔らかく、淡く、若手キャストたちも皆、他の作品で観た以上に輝いています。

 孤独だった彼ら彼女らが、たった一人と思える他者との出会いで今という瞬間から始まる未来について語ろうとする、そんな強さを持つようになる様を描いたこの映画はほんと、何だかいいんです。

 言葉にし難い“何だかいい”空気感を纏ったこの映画に私が出会ったそもそものきっかけは、なんとシネマイクスピアリが撮影場所の1つとして選ばれていること。手前味噌な出会い方ではありますが、いつも知っているあの風景がこんな風に描かれるなんて・・・そんな映画のマジックも体験してみてください。

いや~、本当に何だかいい映画なんですよ♪

By.M

※原作:世紀末さんがデザインし、実際に劇中で着用した衣装も展示中!
撫子ちゃんと八千代くんバージョンです。