ウラシネマイクスピアリブログ

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『ワイルドライフ』

 夏の大作が公開する時期ですが、今回も小規模公開ながらもオススメしたい1本、7/5(金)から上映の『ワイルドライフ』をご紹介いたします。

 物語の舞台は1960年代、モンタナ州の田舎町。14歳のジョー(エド・オクセンボールド)はゴルフ場で働く父ジェリー(ジェイク・ギレンホール)と元教師で新天地での生活から専業主婦になった母ジャネット(キャリー・マリガン)と3人暮らし。

新しい生活にやっと慣れ始めた頃に父が仕事を解雇され、それを機に仲良しだった両親の仲に亀裂がどんどん入り始めます。本作は幸せに暮らしていた両親の関係性がほころび、次第と壊れゆく様を14歳の少年の目線で描いた物語です。

 主人公のジョーは口数も多くなく、真面目で大人し目の少年です。両親のことも大好き。でも両親は時に意見の食い違いで喧嘩することがあったり、いろいろうまくいってないことも薄々感じています。そんなある日、父親が解雇され、山火事の消火活動に出ると言いだします。身の危険もあるし、ボランティア同然のその仕事で稼げるお金は僅か。家庭内が火の海なぐらいなのに・・・

劇中、ジェリーはプロゴルファーだったけれど挫折し、今の生活をしていることがわかります。きっと昔はそれなりの良い人生を送っていたのだと思います。なのに、一つの失敗で万事がうまくいかなってくる。一度、成功を知った人の挫折がとても厄介ということは想像に難くないのですが、加えてこの物語が描かれる時代、場所の影響もあって彼は“男らしさ”の呪縛に囚われています。

プライドが邪魔をして仕事でミスをしたり、家計を支えるため(働き手は多いことに越したことはないのに)ジャネットとジョーが働いくと言い出すと激怒し、ボランティア同然の仕事に向かおうとしたり・・・・。彼が選んだ仕事からも男たるものに囚われている人の選択に思えて仕方ありません。

 一方、母のジャネットもそんな夫の行動に反発するも、一人では生きられないと捨てられることに怯えたり、心のどこかに女性として守られたい、という思いがあるため仕事先で出会った中年男の元に厚化粧をして出かけていく・・・。ジョーは大好きだった両親の見たくない一面を見せられてしまうのです。

でもこの映画で描かれる彼の目線はそんな両親を前にし、傷つきながらも二人への愛情は保たれたままのように感じられます。14歳というとても多感な時期に必然的に成長せざるを得なくなった少年はその過程で両親が父であり母である前にそれぞれが男であり女であり、一人の人間である、ということも知っていくのです。それでも二人は自分の親であることには変わりないのだと。

 そんな少年の心の起伏を繊細に描いたこの映画、映画ファンならキャスティングを知っただけで「気になる!」と思ってもらえると思います。ジョーの両親を演じるのがジェイク・ギレンホールとキャリー・マリガン。この二人が出演する映画は大概良いと相場が決まっています。(私調べ)彼らと全く引けをとらない演技をしてみせたジョー役のエドくんと言い、役者たちの演技は文句なし。

そしてこんな夢のようなキャスティングが叶ったのも、本作の監督が若手演技派筆頭のポール・ダノだから、と言って過言ではありません。円熟味すら感じるのにこれが初監督作品というから驚きです。長年映画を撮りたいと思っていたポール・ダノが本作の原作を読み、映画のラストシーンが明確にイメージ出来たことで映画化を決意したそうですが、その言葉にふさわしく、本作のエンディングは私の中でも本年度ベスト級のラストシーンです。

 ポール・ダノ初監督作品にしてこの布陣、きっと傑作に違いないという期待は冒頭のシーンから確信に変わり、最後まで裏切らない。ポール・ダノ、恐るべし、なのです。

父ジェリーを演じるジェイク・ギレンホールは大ヒット中『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』にも出演。本作と併せてジェイク祭りもお楽しみいただけますよ。


By.M