ウラシネマイクスピアリブログ

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『グリーンブック』

 今回は、本年度のアカデミー賞作品賞含む3部門の受賞となった3/1(金)公開『グリーンブック』をご紹介いたします。

 時は1962年。ニューヨークの高級クラブで用心棒として働くトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)はひょんなことから黒人ピアニスト、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として、未だ人種差別が色濃く残るアメリカ南部のコンンサートツアーに同行することになります。価値観も性格も育った環境も全く違う正反対の二人ですが衝突しながらも次第と友情を育んでいくようになります。

 タイトルの“グリーンブック”とは当時、黒人差別が合法だった南部において黒人の利用が可能な施設を記した旅行ガイトブックの事を指します。

それまでは当たり前のように黒人差別していたトニーはお金のため、ボスの頼みだからとこの仕事を引き受けています。ガサツだけど豪快さでもって周りから愛されている、ガハハガハハと笑い、フライドチキンを手づかみで食べて骨を車の窓から投げ捨てるような男です。 

 一方、世界的な天才ピアニストとして幼い頃から教育され教養があり品に溢れるドクター・シャーリー、この後の展開も推して知るべしです。お互い、自身の価値観を譲らず、なかなか打ち解けることもないのですが、ドクター・シャーリーの演奏を聴き「あいつは天才だ!」と彼の才能をすぐに理解するとトニーは心躍らせ、人柄を徐々に認めていきつつも、行く先々でドクター・シャーリーが心ない対応を受けるのを見るにつけ、彼が黒人というだけで理不尽に差別されることに憤りを感じるようになるのです。

かつては自分も差別する側の人間だったけれども、その心は変化していきます。そして差別される、嫌な思いをするとわかっていながらも敢えて南部をツアーで回る、ドクター・シャーリーの真意を知った時に彼の心は大きく揺さぶられるのでした。

 ヤクザな用心棒トニーを演じたのは『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン役で女性の心を鷲掴みにしたヴィゴ・モーテンセン。アーティスティックな一面を持つクールで色気のあるインテリ俳優として知られる彼がそれらを一切封印し、どっから見てもガサツな男を演じ、『ムーンライト』でドラッグディーラー役を演じていたマハーシャラ・アリが孤高のピアニストをエレガントに演じ、ヴィゴはアカデミー賞主演男優賞ノミネート、マハーシャラは(『ムーンライト』に続き)同賞助演男優賞受賞となりました。特にマハーシャラの佇まい、振る舞いが絶品!気高さとキュートさを兼ね備えるドクター・シャーリーを彼が演じたことで、この映画全体がよりチャーミングになりました♪

勿論、人種差別がベースにある物語ではあるのですが、黒人だけれども恵まれた環境で育ちそれ故、白人はもちろん黒人のコミュニティにも居場所がなく、ずっと周りを伺いながら生き、人との繋がりにおいて臆病になっていた彼がトニーとの出会いで背中をポンと押してもらい、前に進んでいく姿も描かれます。これがエンディングにも繋がっていき、とても優しい気持ちになれる1本です。

 また二人の距離が近くなる、そんなアイテムの1つにトニーがツアー中、離ればなれになった最愛の妻ドロレスに出す手紙があります。子供の夏休みの作文のように拙かった手紙がドクター・シャーリーの手にかかるとロマンティックなラブレターに大変身。そのやり取りも何とも微笑ましい♪

 この映画を監督したのは『メリーに首ったけ』他、コメディ映画監督として知られていたピーター・ファレリー。先日来日した際に「世界中が本当に厳しい時代になっているけれど、いつだって希望があると僕は信じています。そしてその希望は会話から生まれると思う。そんなことで平和は得られない、シンプル過ぎると思われるかもだけど、話をしてみないと何も始まらないからね。この映画からそんな希望を感じてほしい。」とコメント。彼の優しさが伝わるメッセージでした。

 温かさと笑いと可愛げに溢れる本作は春の訪れを感じる今の季節にもぴったりの1本ですし、何よりアカデミー会員が認めた一本!是非スクリーンでお楽しみ下さい。

By.M