ウラシネマイクスピアリブログ

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『人魚の眠る家』

 お正月(冬休み)映画の大作が続々と公開される時期になりました。が、その前に衝撃と感動で心掴まれる大人な1本、11/16(金)公開『人魚の眠る家』をご紹介いたします。

 離婚寸前だった夫婦に悲報が舞い込む・・・愛する我が子・瑞穂(稲垣来泉)がプールで溺れ意識不明のまま回復の見込みさえないと。医師から“脳死”の可能性が高いと診断され臓器提供を希望するか、心臓死を待つか、究極の選択を強いられます。奇跡を信じた夫婦は延命治療を選び、ある決断をするのですがそれが次第に運命の歯車を狂わせていきます。

 本作はベストセラー作家東野圭吾さんが作家デビュー30周年を記念して書いた同名小説の映画化。“脳死”という重いテーマを扱いながらもミステリー作家東野圭吾らしい、一級のエンタメ小説としてファンの間でも評価の高い1冊です。

世界の殆どの国で「脳死は人の死」とされ、脳死下での臓器移植が日常の医療として確立されています。しかし、日本では、臓器を提供する意思がある場合に限って「脳死を人の死」としています。この何をもって“死”を定義するのかというグレーゾーンがこの映画の根幹にあります。

回復の見込みがないと診断されても、(脊髄反射だとしても)動けばその命の可能性にかけたくなることは誰も否定できません。ましてや幼い娘の人生が突然終わりを告げるなど受け入れられる訳もありません。そんな時、母・薫子(篠原涼子)の夫・和昌(西島秀俊)は自社で開発した最先端技術が娘の身体に活かせるのではと思いつき、研究員の星野(坂口健太郎)と共に娘・瑞穂の治療を始めます。

星野が手掛けた装置によって自分の意思とは関係なく手足を動かすようになる瑞穂。身体が動くことによって実際、肌つやも良くなり、体も徐々に成長していく。その様を見て、きっといつかこの娘が回復するのでは、と一縷の望みをかける薫子。そんな娘の側で片時も離れることなく世話をし続ける彼女はどんどん盲目的に娘の“生”に固執していくのです。

父親の和昌も星野も自分の研究が我が子の、身近な人の役に立っていると実感し、技術者としての客観的な視点を失っていきます。そしてその実験とも言える治療がエスカレートし始めた時、和昌は一種、暴走していく自分たちの“狂気”に気付くのです。

この物語で胸を締め付けられるのは、こういったことがいつ何時自分の身に起こるとも限らない他人事では一切ない、自分事であること、誰もが瑞穂ちゃんを生かしてあげたい、その“生”を諦めたくないという純粋な想いを抱えていること、そしてその判断が未だ日本においてはとても曖昧なものであることなのです。

映画自体は衝撃的なテーマが入口となってはいますが、映画の終盤は母親・薫子を演じた篠原さんの圧巻の演技によって、愛する人の“命”を信じ続けるその想いに、彼女の慟哭に打ちのめされ、涙する方も多いと思います。観終わった後も余韻が離れない、感動の1本は是非映画館でご覧ください。

By.M