ウラシネマイクスピアリブログ

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『空飛ぶタイヤ』

 「下町ロケット」「陸王」ほかでお馴染、大人気ベストセラー作家・池井戸潤。多くの作品がドラマ化され高視聴率を得ていますが、意外にも映画化は本作が初めて。今回は6/15(金)公開の『空飛ぶタイヤ』をご紹介いたします。

 1台の大型トレーラーが起こした脱輪事故。歩道を歩いていた主婦が亡くなり、車の整備不良を疑われた運送会社の社長赤松徳郎(長瀬智也)はマスコミ、世間からバッシングを受ける日々。ただ、そんな事故が起きるとは思えない赤松は独自調査をする中で、車輛に構造上の欠陥があったのでは、と疑います。それはやがて車を製造していたホープ自動車の“リコール隠し”という事実に行き着くのですが・・・

 今年の流行語大賞になりそうで、その言葉の通りの意思が働いて、きっとならなさそうな“忖度”。普通に考えれば「おかしくないか?」ということが上の顔色伺いで黒が白になるこのご時世。“忖度”がこじれ過ぎて、大の大人が必死で対応している姿は滑稽の何ものでもありません。この映画で描かれる大きなテーマも“忖度”によって隠された事実です。組織や社会での体裁を保つためにいくつも重ねられる嘘。大事なのは出世と世間体、そこには最大限の注意を払うのに、自分より弱い立場の人たちにはこれっぽっちも目をむけず、むしろぞんざいな態度を取り続ける大手企業。この映画を見ていると人は保身や欲の前では、いとも簡単に無様な醜態をさらすことを教えてくれます。

 巨大な悪に立ち向かう中小企業の社長・赤松を演じるのはTOKIOの長瀬智也さん。コメディ色が強い奔放な役やラブストーリーの主人公といった役の印象はあったもの、社会派ドラマで演じるのは珍しい気がしますが、思えばTHE男気な長瀬、そんなイメージも強い彼だけあって、誰に対しても誠意を持って向き合い、正義が報われることを信じ、巨大企業に立ち向かうこの役がなんともハマってる。赤松は小さな会社の二代目社長ということもあって、親が大きくした会社をきちんと継続させたいと願い、そこで働いてくれる従業員は家族のように大切にする、人情派若手社長。

最初は素行がイマイチな若手従業員の整備に不備があったのではと疑いつつも、若手従業員が人知れず、法で定められていた以上の点検をしていたことを知ると自身の軽率な判断を素直に詫び、悔い改める様は彼自身が徹頭徹尾完璧な人間ではないことを表現しつつも、これまで従業員一人一人にどういった態度をとっていたかを気付かせるエピソードでもあります。事故ではなく車自体の不備が原因という“事件”である可能性が高いと感じつつも、車を製造した大手自動車会社は歯切れ悪いどころか誠意も見られない対応ばかりしてくる始末。確たる証拠がない中でマスコミが報道することが真実のように語られ、世間からは信用を失い、取引先、メインバンクに見離され、会社の存続すら危ぶまれ、どんどん追い込まれる赤松。

 加えて被害者遺族からは「謝りに来るならなぜ自分の非を認めないのか、それでも人間なのか」と責められ、自分の信念も揺らいでいく。板挟みな中で、大切にしていた社員も苦渋の選択で離れていったりで本当にやりきれない・・・でも赤松の心にはいつも「俺が闘わなければ誰が闘うんだ!」という“でもやるんだよ!”精神で妥協の文字はありません。そんな赤松の元で会社が一致団結してきたように、赤松の必死な願い、一途な思いは巨大組織の中でコマとしてしか扱われていなかった人さえも動かすようになり、彼らも個としての自身を取り戻すのでした・・・胸熱!

 人を傷つけたり、間違ったことをしたら素直に謝る、って子供の頃に誰もが親に言われていたことだと思いますが、なんで大人になると邪な考えが肥大化してそれが出来なくなるんでしょう。本当、アホらしですよ。

 さて、本作は社会派映画ではありますが、男気☆長瀬を愛でる映画としてもグっとくる1本。スーツ姿でシリアスな演技をする長瀬さんは色っぽくもありスクリーン映えもバッチリ。次回は是非、韓国系フィルムノワール的なアクション映画に出てほしい・・・「『アジョシ』の日本版リメイクとか凄く良くない?」というので友達とかなり妄想も膨らんだのですが、どこかで映画化してもらえないでしょうか?

By.M