ウラシネマイクスピアリブログ

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『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

 今回は昨年世界中の映画賞を席巻したインデペンデント映画、5/12(土)公開『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』をご紹介いたします。

 6才のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)とシングルマザーのヘイリー(ブリア・ヴェイネイト)が住むのは世界最大の夢の国“フロリダ・ディズニー・ワールド”・・・のすぐ側にある安モーテル“マジック・キャッスル”。極貧ギリギリ生活ではあるけれど小さいムーニーにとっては毎日がワクワクの連続。そんな母娘の日常をムーニーの目線で描いていきます。

 タイトルにもある“プロジェクト”とは低所得者向けの公共住宅のこと。アメリカでは住宅価格高騰の煽りを受け、“プロジェクト”にさえ住めず安モーテルやキャンピングカーといった所を生活の拠点にする人が増えているとか・・。家なし、職なし、お金なしなムーニーのママは1週間分の宿泊費を稼ぎ、1週間モーテルで生活をする、その繰り返し。でもそのお金を稼ぐのもやっとこさ。ダイナーで働く友達に食糧を分けてもらったり、慈善事業のフードトラックが運んでくれるごはんを食べたり、偽物の香水を観光客に売ったりして何とかしのいでいます。

そんな貧困生活ではあるけれど、幼いムーニーにとってはママとたくさん遊べるし、同じような境遇の友達もいるし、大人に恵んでもらった小銭で買った1個のアイスを友達と仲良く食べることが楽しくてたまらない。彼女が置かれている現実はとても厳しく過酷なものなのですが、フロリダの青空の下、ディズニーワールドはすぐ近く。パステルカラーなモーテルが立ち並ぶ風景の中で、ちびっこギャングさながらイタズラ三昧なムーニーの日々は彩られたポップな世界に見えるのです。

それは一重にこの映画に登場する大人たちは問題こそあれ、子どもたちには愛情を注いでいるから。愛を与えられているムーニーは生命力に溢れています。でもこのシビアな現実とムーニー目線で見える世界とのアンバランス加減は何とも言えない・・。カラフルな日常と天真爛漫なムーニーのイタズラな笑顔でもって、子どもたちの逞しさを感じる人もいるだろうし、一方でムーニーたちが無邪気であればある程、その裏にある本当のことを感じてしまう人もいるかもしれません。

そんな何とも言えない感情を体現したかのような人物が“マジック・キャッスル”の管理人ボビー。この安モーテルに住むだらしない大人たちの面倒を一気に引きうけている彼は落語に出てくる長屋の大家よろしく、家賃の催促、備品整理、施設修理、苦情処理と大忙し。悪さばかりしてご近所迷惑も甚だしいムーニーたちにしっかり説教しつつその実、彼女たちが危ない目に合わないよう目を光らせたり、ダメな大人たちを蔑むことなく、でも一線を越えた大人には容赦なくNOを言う。(ちょっとしたセリフからも伺えるように)自分にも本当はいろいろあるのに、ここでしか生きられない人たちを見守る眼差しが何とも温かい・・・。

何とかしてあげたいけど見守るしか出来ない、そんなやるせなさを抱えているボビーを演じるウィレム・デフォーがまた良いんですよね。普段は癖のある役が多いだけに個人的にもこんなデフォーが見たかった・・・。この演技でアカデミー賞&ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされたのも納得です。

ボビーを始め、周りに助けてもらって誤魔化しながらの日々。でもそれが永遠に続く訳はなく、ある事を機に二人の生活は変わらざるを得なくなります。自分にはママしかいない、ここしか居場所がない、そんなムーニーの想いが爆発するラストはまさにミラクルエンディング。この映画はシネマイクスピアリで観るからこそ、余韻がより深まる作品です。それが何かは映画を観ての、お・た・の・し・み!

By.M