ウラシネマイクスピアリブログ

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『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』

 昨今いろいろ盛り上がっているフィギュアスケートですが、華やかなこの競技に以前、疑惑にまみれた事件が起きていたことを知っている人はきっと私と同世代、もしくはそれ以上の方々でしょう。今回はオリンピック代表に選ばれながらライバル選手への襲撃事件といったスキャンダルの渦中にいた女性の物語、5/4(金)公開『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』をご紹介いたします。

 アメリカ女性初、史上二人目のトリプルアクセル成功者になりながら(一人目は伊藤みどりさん・・・と言っても知らない世代も多いのか?!)、一瞬にして世界中の嫌われ者となったトーニャ・ハディング。名前を覚えていなくても「スケートの靴ひもに不具合があるの・・・もう一度、最初から滑らせてぇぇ~(びぇ~ん)」と泣いて審判に訴えていた選手と言えば思い出す方も多いはず!

 彼女がこうなるに至った元凶はナンシー・ケリガン襲撃事件にあります。リレハンメルオリンピックの代表選考会の練習後、優勝候補と言われていたナンシー・ケリガンが何者かに右ひざを殴打され、この大会を欠場。優勝したのは最大のライバルと言われていたトーニャ・ハディングでした。しかし2週間後にトーニャの元夫ジェフらが襲撃事件の犯人として逮捕されたことで疑惑の目はトーニャに・・・オリンピック選手ともなるとその人間性やクリーンなイメージが過度に要求されるだけあって、ご存知ない方もこのスキャンダルがどれだけ注目されたか想像に難くはないでしょう。

本作の脚本はトーニャと元夫ジェフほか実際の関係者たちのインタビューを元に構成されたものですが、両者の言い分が大きく食い違っているため、真実は藪の中・・・一体全体本当のところどうなのよ!と言うのは神のみぞ知る、といった体裁を取っています。ただ、類まれな才能がありつつもトップアスリート人生から転落してしまった・・・いや、実は幼い頃からずっといばらの道を歩きっぱなしで“女ののど自慢”に出場すればぶっちぎり優勝なレベルのトーニャの半生は最後まで観客の好奇心を引きつけっぱなしなのです。

 またこの映画を観た時に全てにおいてインパクト大で記憶に残るのは、この役で見事本年度アカデミー賞助演女優賞を受賞したアリソン・ジャネイ扮する、トーニャのママことラヴォナ。学も所得ない彼女は4番目の夫との間に生まれたトーニャにスケートの才能があると気付くやいなや「貧困脱出はこれだ!」と全てを彼女に捧げるのです。でもトーニャママが普通のママと違ったのは暴言を吐くわ、暴力振るうわの毒母、モラ母だったのです。(↓なぜ肩に鳥!?その答えは映画館で・・・)

その行動は今で言う“虐待”なレベルなのですが、お父さんは家族を捨ててしまい、頼れるのはお母さんしかいないし、スケートしか自分にはない、ここしか生きる場所がない・・・。そう思ってしまった幼いトーニャはその環境のおかげでおそらくハングリー精神は人並み以上となり、一方でスケートスキルもメキメキ上達していくのです。

 そして成長した彼女が追い打ちのように出会ってしまうのが後に結婚までしてしまうジェフ(「アベンジャーズ」シリーズのバッキーでお馴染みセバスチャン・スタン)。また不運にもこやつもDV男だったのです。「小さい頃から殴られ慣れているから平気!」とカメラ目線で観客に言い放つトーニャ、悲しいったりゃありゃしない。

確かにトーニャの言動もいろいろ問題はあるのですが、そもそもトーニャは子どもの頃から不運&悲運の元にあったというのは誰もが否定しない事実。家庭がこんなにも貧困ではなく、環境がもっと違っていたらトーニャの人生も変わっていたかもしれませんが、オリンピック代表という世界中で一握りの人しか手に出来ない名誉も栄光も彼女の手からはスルスルこぼれ落ちてしまうのでした。

 とにかくトーニャを始め、出てくるメンツ全員、「どいつもこいつもこんなんばっかりなのか!」と言いたくなるほどキャラが濃すぎなので、ともすればチープな作品になってもおかしくないのですが、そうなってない所がこの映画の凄いところ。そこはトーニャを演じた(本作でアカデミー賞主演女優賞ノミネート、「スーサイド・スクワット」のハーレイ・クインでお馴染)マーゴット・ロビーを筆頭にキャスト陣の演技力の賜物かと思われるのです。とにかく力作!!

By.M