ウラシネマイクスピアリブログ

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『ビニールハウス』

 今回ご紹介する映画、私はとても好きなのですが“好き”という言葉で表現するには憚れる内容ではあります。でもインデペンデント映画でありながら昨年の釜山映画祭で3冠を獲得し、主演のキム・ソヒョンは韓国の主要な映画賞で主演女優賞を総なめした見応えありの1本なのでひるまずにいきます。3/22(金)公開『ビニールハウス』です。

 ムンジョン(キム・ソヒョン)は、年老いた母親を介護し、少年院にいる息子との同居を夢みながら、ビニールハウスで貧しい生活を送っている。盲目の元大学教授・テガン(ヤン・ジェソン)と、認知症を患うその妻ファオク(シン・ヨンスク)の訪問介護士として家政婦も兼ねて雇われている。しかしある日、風呂場でファオクが暴れ転倒し命を落としてしまう。その場をなんとか取り繕うとしてある考えを思いつくが悲劇が連鎖を引き起こしていく・・・

 “格差社会”を独特の視点で描いたポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2020)が記憶に新しいところですが、本作のキャッチコピーでもある“半地下はまだマシ”がグっと胸に突き刺さるのが本作。実際、韓国では無許可で作られたビニールハウスに住む世帯が増えていることが社会問題となっているそうですが、この物語の主人公ムンジョンもギリギリの中で生活をしています。

辛い仕事も雇人の旦那さんの優しさだけが彼女の心を救い、「息子と一緒に暮らすことが出来れば・・・」という一縷の望みにのみすがっていたのに悲劇は突然起きてしまいます。

 すぐにその非を認めればこんなことにはならなかったのに・・・という展開がこの後どんどん彼女の身に降りかかります。「今ならやり直せる!今からでも遅くない立ち止まって!」と何度も叫びたくなる中、もちろんそんな声は彼女には届きません。そうせざるを得ないムンジョンの苦しみ、その切実さに観ているこちらも何とも言えない感情に襲われます。

 でもそれは決してこの女性にだから起きた出来事でなく、いつ自分がムンジョンのような境遇に置かれるともしれない、というのが今の社会。そう考えると他人事ではありません。 

 映画的な展開がいくつか散りばめられているので「これからどうなるの?」という緊張感の応酬の後、最終的に彼女の身に降りかかる顛末はもう言葉になりません。

 映画としての完成度も高いこの映画が1994年生まれのイ・ソルヒ監督の長編デビュー作というのがまた驚き。「私は人間の暗部や欲望を覗き込みたい。」とインタビューで語った彼女が巨匠イ・チャンドン監督(『シークレット・サンシャイン』、『劇場版バーニング』ほか)を敬愛しているというのは大いに納得。次回作が楽しみな監督さんがまた一人増えました。先ずはこの作品で韓国の新しい才能と出会ってください!

それにしても人生って理不尽・・・

By.M