ウラシネマイクスピアリブログ

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『カモン カモン』

 今回、ご紹介するのは『ジョーカー』でアカデミー主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス主演、4/22(金)公開『カモン カモン』です。ジョーカーで世界を震撼させたホアキンが選んだ次の作品はうってかわって心にじんわりと沁み込む物語です。

 ジョニー(ホアキン・フェニックス)はNYを拠点にアメリカ国内を飛び回るラジオジャーナリスト。妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)の頼みで9歳の甥ジェシー(ウディ・ノーマン)を数日間預かることに。子供のいないジョニーにとって疑似子育てな日々が始まります。

 本作の監督はマイク・ミルズ。元々CMやミュージックビデオを監督するなど、多才なセンスを武器に90年代ニューヨークのカルチャーシーンで活躍していました。映画監督になると自身の体験を元にした『人生はビギナーズ』(10)で父親との関係を、『20センチュリー・ウーマン』(16)では母親との関係を描き、この作品では自身が子育てで経験したことをモチーフに脚本・監督を手掛けています。

 ジョニーは子供たちにインタビューをするため、録音機材を肩にかけ各地を飛び回る仕事をする独身男性。ジェシーとこれまで接点があまりなかったのですが、子供たちの話を聞くのが彼の仕事。何とかなると思っていたかもですが、ジェシーはユニークでちょっとエキセントリックな少年だったので最初とても戸惑います。

そうでなくてもジェシーのようなお年頃の子は世の中わからないことだらけ。疑問に思うと、なぜなぜ?とすぐ質問を投げかけ、大人が聞かれてほしくないこともストレートにぶつけます。時に不躾、でも確信を捉えた質問に「はっ」となること暫し。ジョニーは思いもよらぬ行動を取るジェシーにギブアップしそうになりますがその都度ヴィヴに電話でアドバイスをもらうようになります。ヴィヴとも色々あったジョニーですがジェシーを介して二人の関係性にも変化が訪れます。

 そこで描かれるのは育児、仕事、問題を抱える旦那のサポートとヴィヴが様々な役目を担っていること。たくさんの役割を抱えながらもジェシーと向き合っている彼女の姿。どんなにジェシーを愛していても時に彼の言動にゾっとすることもあるという本音込みでの吐露。ヴィヴを通して世の中のお母さんが抱える大変さを敬意をもって描く感じも(『20センチュリー・ウーマン』に通じる)マイク・ミルズ作品らしさを感じます。

そんな風にしてジョニーはジェシーと向き合い、面倒を見る視点から対等になることでより親密な関係性を深めていきます。そこにあるのは会話以上に対話。そう誰かを知ることは会話だけでは足りず、必要なのは対話なんですよね。

 この映画でホアキン扮するジョニーが子供たちにインタビューをするシーンは実際に取材をした子供たちの生の声が使われています。そこで発せられるのは子供とは思えない程の洞察力で捉えた問題提起から寛容さや優しさに溢れた言葉たちです。そのしっかりした発言に「子供たちって本当、未来だな」とこっちがパワーを貰う程ですが、そんな事に感激している場合じゃありません。だって大人は子供たちに責任があるから。

私たちだって子供の時はたくさんの希望を持っていたはずなのに大人になるにつれ「社会はこんなものだから」としたり顔になり、物事からは目をそむけ、対話を止め、行き着いた先がこの有り様です。子供たちのために私たち大人はもっとしっかりしなきゃだよ・・。ちょっと反省です。

 ウィルスは急に蔓延するし、戦争も急に起きる、人生は予測不能なハプニングばかり。それでも前へ進むためにこの映画は戸惑う大人たちの背中を押してくれる存在でもある気がしています。

By.M