ウラシネマイクスピアリブログ

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『Our Friend/アワー・フレンド』

 今年は10月になっても夏の終わりみたいな天候でしたが、やっと秋めいてきました。そんな穏やかな空気が街に漂うようになる季節に是非ご覧になっていただきたい映画、10/15(金)公開『Our Friend/アワー・フレンド』をご紹介いたします。

 ジャーナリストのマット(ケイシー・アフレック)と舞台女優のニコル(ダコタ・ジョンソン)は二人の娘と毎日を過ごしていました。が、ニコルが末期がんの宣告を受け一家の生活は一変。そんな時に彼らに救いの手を差し伸べてくれたのは二人の親友デイン(ジェイソン・シーゲル)でした。

 本作はアメリカの有名雑誌「エスクァイア」誌に掲載されたマシュー(マット)・ティーグの実体験に基づくエッセーがベースになっています。余命幾許もない妻、という設定を聞くと“お涙ちょうだいもの”的な作品を想像するかもしれませんが、これまでもあまた同じような設定で映画化された作品があった中で、それでもこの映画が作られたのはやっぱり今までになかった描き方があったからです。それはタイトルにもあるように“Our Friend”、二人を支える友を描いたところにあります。

 ニコルが宣告を受け半年後、育児と介護でギリギリの精神状態に追いこまれたマットの元にやってきたデインは二人の長年の友達です。最初デインは2~3週間ぐらいのつもりでしたが、その状況を見てしばらく彼らの側にいることを決意します。

デインは近くに住んでいた訳ではないし、仕事もあって恋人もいて、彼の生活もあったけれど、二人のこと、そして彼らの娘たちを助けると決めます。彼が無欲無私で親友夫婦の側にずっと寄り添う姿は本当に心を打たれます。大好きな誰かのために、身内でもないのにここまで無条件に自分を差し出すことは決して生易しいものじゃありません。

 そして親友夫婦に対してもそうですが、二人の娘への接し方にもデインの優しさが溢れています。姉という立場で弱さを出せず、大人が思うより現状の厳しさを自然と察知してしまうお姉ちゃんは本人も気付かない所で傷ついている、そういうお姉ちゃんの気持ちを慮ってそっと気遣い、でも普段は明るさを失わないデイン。幼い姉妹にとっても彼は親友なんだろうな、という描かれ方は時に微笑ましくもあります。

 そんなとってもいい奴デインにマットたちが一方的に善意を受けていた訳ではなくデインにとっても彼らの存在が如何に大切なのか、それがわかる展開も描かれ、デインの行動の理由や彼の人間性がより深く理解出来ます。そうこんな風に他者との関係性って持ちつ持たれつというか、ちょっとした言葉や行動が知らず知らずのうちに誰かの役に立つ、誰かを救うこともあるのかなぁ、と思うと、他愛無い時間の共有だったり、ただ側にいる、いてくれるという関係性って本当にかけがえがないものだなぁ、とコロナ禍で友達、家族と気軽に会うことすらままならなくなった今、この映画を観るとより沁みてくるのでした・・・。

人生で別れは必ず経験するものですが、それに囚われるのではなく、出会えたことから始まった歓びをより感じられるようになれたらなぁ、そんな事も思ったり。
じんわり良作です!

By.M