ウラシネマイクスピアリブログ

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『エイブのキッチンストーリー』

 今回は11/20(金)公開『エイブのキッチンストーリー』をご紹介いたします。

 NYブルックリン生まれ、イスラエル系の母とパレスチナ系の父を持つエイブ(ノア・シュナップ)は文化や宗教の違いから家族に喧嘩が絶えないことにいつも頭を悩ましています。エイブはみんなの事が大好きなのに、家族は会えば喧嘩ばかり・・・悲しい気持ちになって外に飛び出します。

辿り着いたのはブルックリン名物の1つでもあるフードフェス。週末になるとフードに特化した野外マーケットが開催され、人気店や話題のフードが軒を連ね、地元民、観光客と大賑わい。料理を作るのが大好きなエイブのブルーな気持ちは次第と晴れていくのですが、そこでブラジル人シェフ・チコ(セウ・ジョルジ)と出会い、彼に料理を教わることに・・・エイブは得意な料理でもって家族の心を1つにしようと奮闘します。

 主人公のエイブを演じるのはNetflixの人気ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」で一躍注目されたノア・シュナップ。エイブは共通の話題を持つ友達はいないから一人ぼっちな時が多いけど、料理を作っている時は幸せ!的な素直な少年。世界各地の食材や調理法をミックスして作る“フュージョン料理”が得意なチコと出会い、いろいろが掛け合わされた料理がこんなに美味しいのなら僕たち家族も同じように仲良くなれるハズ!しかもその料理を僕が作っちゃうぞ!と発想するところはなんとも健気。そんな役もノアくんが演じるからこそです。

 その上、ブルックリン×グルメというオシャレな雰囲気、劇中たくさん登場する目にも美味しそうなフードの数々、本編尺85分という短さもあいまって、気軽に観られるところもいいですね♪コロナ禍で海外旅行もお預けになっている昨今、コロナのないHAPPYなブルックリンの光景が広がっているのを眺めているだけでも胸がいっぱいにもなっちゃいます。

 と、ライトな感覚で楽しめる本作ですが、根底には世界の至るところで起きている“分断”という難問にも向き合っていきます。家族内でユダヤVSイスラム問題が勃発している中でエイブはそれぞれの文化に興味を持ち、良い面を見ようと努力し、様々な要素がミックスされた自分独自のアイデンティティを見つけようとします。

特にエイブのおじいちゃんたちは自分たちの理念に頑なで偏見も持っていて家族という小さな単位でも平和に物事は解決されません。家族の諍いをなくしたいというエイブの願いはそこだけ見るとささやかなことかもしれませんが、こんな小さな共同体ですらいがみ合うのなら、それがもっと広い社会や国同士だったら・・・と考えるとやっぱり途方に暮れてしまいます。それでも自分の近しい世界から変えていかないと何も始まらない、ということにも改めて気付かせてくれる、この映画、可愛いだけじゃありません。

 本作で大活躍だったノア君は11/27(金)公開『アーニャは、きっと来る』でも主役を飾り、ユダヤ人の子供たちを救う羊飼いの少年を演じています。マイケル・モーパーゴ(『戦火の馬』)の同名小説を映画化したこの作品もテーマはしっかりとしていますが、とても観やすい作品になっているのでこの秋はノアくん2本立てでぜひ!

By.M