ウラシネマイクスピアリブログ

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『mid90s ミッドナインティーズ』

 インデペンデントの会社ながらもアカデミー賞にも常連となった新進気鋭の映画制作・配給会社A24はここ数年でメキメキと頭角を表し、日本でも「A24ならチェックしなきゃ!」といった映画ファンも増えてきています。そんな注目のA24作品、シネマイクスピアリでは『ミッドサマー』や『WAVES』以来。今回は9/4(金)公開『mid90s ミッドナイティーンズ』をご紹介します。

 舞台は90年代半ばのLA。13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)は兄のイアン(今回も最高!ルーカス・ヘッジズ)と母親と3人暮らし。小柄なスティーヴィーは暴力的で自分より大きい兄に全く歯が立たず、いつか見返してやりたいと内心思っています。そんなある日、街のスケートボードショップでたむろする少年たちと出会い彼らと打ち解け、と同時に憧れを抱くようになります。

 本作は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、『マネーボール』で助演男優賞ノミネート経験もある俳優ジョナ・ヒル(現在36歳)の初監督作品。前回ご紹介した『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のモーリー役ビーニー・フェルドスタインとは実の仲良し兄妹だったりします。コメディ映画の出演でキャリアを積み、タランティーノ、スコセッシといった名監督作品の演技で評価を得た彼の10代はスケートボードをし、劇中にも出てくるコートハウス(LAの有名なスケートスポット)でそのほとんどの時間を過ごしていたとか。そんな彼の記憶が色濃く映し出されている青春映画が本作です。

映画ファンだと「ジョナ・ヒルがどんな映画を作ったんだ?」とか「A24の新作ならチェックするっしょ」的動機で既に期待が高まっている方もいると思いますが、「ジョナ・ヒル、誰なんだ?」といった方が多い、ということも私は知っています・笑。そんな方へのオススメポイントとしては、この映画が男の子目線の青春映画として心から胸キュン(死語)なところ。

13歳ぐらいの男の子と言えば1つ年が違うだけで身長も違うし、大人に見えるもの。友達もいないスティーヴィーはいつも一人ぼっちなのですが、そんな彼がひょんなことから4人の少年たちと出会います。

 彼らは自由奔放でとにかくかっこいい。悪いことはひと通り経験済みな感じも少年スティーヴィーから見ると「ぱいせん、かっこいいっす。クールっす!」と映ります。背伸びしたいのはスティーヴィーだけでなく、彼が尊敬する少年たちだって同じこと。頑張る=ダサいが価値観にある彼らは世間を斜に構えて大人たちを笑いものにし、イキってばかりの日々。大人から見るとそんな彼らにイライラさせられたりもするけれど身に覚えありな人にとってはヒリヒリしちゃうと思います。

純粋なスティーヴィーは少年たちと時間を共有する中で自分までも一端な大人になった気持ちになり危うさが暴走し調子にのりすぎちゃうのですが、それを一番憧れる仲間のレイに諭されるシーンはとても優しく、温かく、特にこの映画全体を象徴とするとても美しいシーンにもなっています。

 レイを演じるナケル・スミスを始め、スティーヴィーと友達になる少年たちは実際、スケートボーダーではあるけれど演技は初経験。なのにそれを一切感じさせず、スクリーンに自然と存在しているのはやっぱり監督が俳優ジョナ・ヒルだからかな、と思ったり。

 10代だった頃の想い出と90年代半ばという時代感をこんなにも美しく閉じ込めたこの映画、眩しさと懐かしさでこんな青春時代の経験がない私も、ちょっとおセンチな気持ちになってしまいました。だってラストが反則だもの・・・。

By.M